高次脳機能障がい支援ハンドブック 第一編 高次脳機能障がいについての理解

更新日:平成31年4月1日

第2章 高次脳機能障がいのリハビリテーション

1.高次脳機能障がいのリハビリテーションとは
2.訓練に関する共通の考え方
3.標準的訓練プログラム
4.訓練の移行について
5.身体面への配慮
6.支援に関わる人々
 【コラム】障がい認識・事故への気づきについて
 ≪事例≫医療機関の診断、リハビリを経て、地域の生活に復帰した事例
 ≪事例≫退職後、単身生活と新規就労を目指し、医学リハ→生活訓練→就労移行支援と段階的に進んだ事例
 ≪事例≫医療・福祉機関、家族が連携して、家事や子育てができるようになった事例
7.神経心理ピラミッド
8.神経心理学的検査

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1.高次脳機能障がいのリハビリテーションとは

 高次脳機能障がいのリハビリテーションは本人の状態・状況(発症・受傷からの期間や目標含む)に合わせて実施していく必要がある。そのためには、まず本人に対する適切なアセスメントを行うことが求められ、同時に、本人を支える周囲の状況・環境を把握することも重要になる。そして、リハビリテーションにおける基本的な考え方や標準的訓練プログラムは存在するものの、各個人の状態像・目標は様々なため、それらに合わせた個別の支援計画を組み立て、適宜見直しながら訓練や家族等支援・環境整備などを進めることが必要となる。
 また、個別訓練だけでなく、グループでの訓練が有効であると言われている。他の当事者との交流により、一人で体験する以上の気づきが得られたり(コラム「障がい認識・自己への気づきについて」参照)、お互いを参考にすることで、訓練が進みやすかったりするといった効果が考えられている。

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2.訓練に関する共通の考え方

どのような訓練を進めるにあたっても、留意すべき共通する考え方が以下の4点である。
(1)認知障がいに対する改善
   特定の認知障がいに対する認知訓練の実施
(2)代償手段の獲得
   残された機能を用いた代償手段・代償行動の獲得訓練
(3)障がい認識を高める
   自身の障がいを認識することで訓練への参加や代償手段、対処法の利用を促進したり、現実的な進路を考えやすくなる
(4)家族へのアプローチを含む環境調整
   障がいによる困難さを減らすように周囲の環境を調整する

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3.標準的訓練プログラム

 標準的訓練プログラムは発症・受傷からの相対的な期間と目標によって3つの訓練が示されている。

医学的リハビリテーションプログラム
 
注意障がいや記憶障がいといった認知障がいに対して、直接的にアプローチし、障がいそのものの回復を図る認知訓練を中心に行う。狭義の“認知リハビリテーション”とも言える。医療機関で実施され、セラピストと一対一で行う机上課題や作業課題などを用いた訓練が中心になる。このような認知訓練は発症・受傷後一年程度の間に行うと特に効果的と言われているが、能力の評価や維持、本人の自己認識向上のためには発症・受傷からの期間に関わらず、行う意味は大きいと考えられる。また、認知面の改善と合わせて、グループでの訓練参加の効果(他者との交流による気づきや訓練意欲の促進等)を見込んだグループ訓練は精神科デイケア等で提供されており、集団での認知訓練やグループ活動等が実施されている。

生活訓練プログラム
 日常生活能力や社会活動能力を高め、日々の生活の安定と、より積極的な社会参加が図れるようにすることを目的に行う。そのため、訓練を通して障がいに対する認識を高め、その代償手段を獲得することが主眼となる。具体的には、生活リズムの確立や生活管理能力・社会生活技能・対人技能の向上、障がいの自己認識・現実検討を目標に、環境調整や家族支援を組み合わせて訓練を進め、同時に、必要とする支援を明確化していく。高次脳機能障がいに特化し、生活訓練プログラムをパッケージとして訓練を実施する場所として主に自立訓練施設(大阪府内であれば大阪府立障がい者自立センターや堺市立健康福祉プラザ生活リハビリテーションセンター、大阪市更生療育センター、東大阪市立障害児者支援センターレピラ サポートスペースここりーど)が挙げられる。また、医療機関では外来や訪問リハビリテーションにおいて生活訓練プログラムの要素を含んだ訓練が提供されている。そして、地域の障がい福祉サービスの日中活動を利用することでひとつひとつの要素について高めていくことも可能であると考えられる(例えば、定期的に通所施設へ通うことで生活リズムを確立したり、その施設で他の利用者と交流したりすることで、社会生活技能や対人技能の向上を促すことは可能である)。

就労移行支援プログラム
 就労を目指す方に実施するものであり、可能な業務、適応面などの職業上の課題を明らかにし、その結果に基づき、職業生活に必要な技能、習慣などの獲得を目指すものである。その際、職業技能や代償行動の獲得、職業的な障がい認識の向上に向けての訓練を実施するだけでなく、適切な職務の選択や環境調整についての支援を行うことも重要な要素になる。主に就労支援施設(就労移行支援事業所など)で実施される。


(以上、3つの標準的訓練プログラムについての詳細は厚生労働省社会・援護局保健福祉部 国立障害者リハビリテーションセンター『高次脳機能障害者支援の手引き(改訂第2版)』 2008  参照)

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4.訓練の移行について

 訓練については“医学的リハビリテーション”のような機能回復の観点から、“生活訓練プログラム”、“就労移行支援プログラム”のような日常生活・社会生活(職業生活含む)への適応、具体的な能力の獲得という観点へシフトしていく。その一方で、必要であれば各訓練段階において、他の訓練の内容を加味したり、一度通過した訓練についても再度実施したりするなど、訓練の流れは一方向性に限らないこともある。また、訓練はひとつの施設では完結しないことがほとんどである。そのため、次の施設(段階)へ移る際は前の段階で行った訓練や支援内容が次の施設の支援者へも伝わるよう、切れ目の無い支援体制を構築をしていくことが重要である。以上のように、各訓練については明確な切れ目があるわけではないため、例えば医療機関にて生活訓練・就労移行支援プログラムの内容が実施されたり、自立訓練施設にて認知訓練(医学的リハビリテーションの要素を含んだもの)や復職支援がなされたり、就労支援施設にて生活訓練プログラムの要素が含まれた訓練が提供されたりするということが実際に行われている。支援拠点機関や医療機関を除けば、高次脳機能障がい専門のリハビリテーションを提供する社会資源が少ないのが現状である。地域の支援ネットワークを構築し、利用できる資源を適切・柔軟に活用することが望まれる。

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5.身体面への配慮

 脳損傷者の多くは高次脳機能障がいだけでなく、身体障がいや体力・筋力の低下など、身体に関する問題が重複する。認知面のリハビリテーションと共に、身体機能へのアプローチも行うことが、身体・認知両面の訓練に効果的であると考えられる。

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6.支援に関わる人々

 高次脳機能障がい者のリハビリテーションについては、認知面、心理面、身体面、社会面と多角的な視点が必要となる。そのため、それらに対応できる幅広い職種が関わることが望ましいと言われている。それが難しい場合には支援拠点機関などの専門機関に助言を受けながら支援にあたることもひとつの方策と考えられる。また、リハビリテーションにおいて家族が「支援者」として担う役割は大きいと言える。ただし、家族が背負う負担を踏まえ、家族への支援も同時に展開することは必須である(『第8章家族支援』参照

リハビリテーションフロー図

画像です。リハビリテーションフロー図

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コラム「障がい認識・自己への気づきについて」

 当事者本人が社会参加のための訓練や代償手段の獲得などに取り組んだり、様々な支援を受けたりするためには、自身にそれらが必要な意味を知ったり、気づいたりすること、すなわち障がい認識や自己への気づきが重要になる。そのため、本人に気づきを促し、障がい認識を高めることが社会参加のために大きな意味を持つ。一方で、『病識欠如』の項で述べたように、高次脳機能障がいの症状に対して十分に気づきを持つことは容易ではないと言われている。また、神経心理ピラミッド(『7.神経心理ピラミッド』参照)でも最も高次レベルであると示されている。得てして障がい認識や気づきのなさは本人の問題としてとらえられがちだが、本人の障がい認識に焦点を当てる際は、まず“周囲の人たちが本人に対する認識を高めること”(=本人の状態像・障がいはどのようなものかを正確に把握すること)が重要と言える。
 本人の気づきを高める第一歩として、支援者や家族により、本人が気づきを得られるような環境設定を行ったり、適切なフィードバックを行ったりすることがあげられる。また、いきなり現実に直面させるのではなく、本人の気づきの段階(どこまで気づきがあるのか)を踏まえ、安心できる環境でフィードバックを行うことや気づきに伴うストレス(“出来ない自分”や“変わってしまった自分”に対するショック等)に対する心理的ケアを合わせて行うこと、そして、気づきの問題(障がいに気付いていない)と心理的な抵抗(障がいを受け入れたくない)を取り違えないように注意することも必要である。
 気づきのうながし方の例として以下のようなものが考えられる。

・一般論として脳損傷後の症状を説明する
・自身の現状を体験できる場面を設定する
・リアルフィードバックを行う(その時・その場での指摘、行動の修正)
・結果だけでなく、同時に対処法や訓練目標も伝える
・できない部分を指摘するだけでなく、できる部分も伝えて評価する
・「気づきがあった」ことをほめる
・本人が受け入れやすい相手から伝える
・振り返りの時間を設定する
・確認事項を紙面に残し、繰り返しチェックする
・グループ訓練や当事者同士の交流の場に参加してもらう(他の当事者の様子を参考に自分のことを考えたり、共感を得たりすることができる)

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医療機関の診断、リハビリを経て、地域の生活に復帰した事例

 40歳代・男性
 症状記憶障がい・注意障がい・遂行機能障がい
 その他

 Aさんは40歳代でくも膜下出血を発症し、ICU(集中治療室)(巻末参照)での約2週間の治療後、回復期病棟へ入院されました。麻痺は軽度でしたが、失語症及び記憶・注意・遂行機能・自発性の低下がみられ、自宅復帰にあたり排泄リズムを確立することが課題となっていました。
 入院当初は、リハビリパンツ内に失禁があっても気付くことが難しかったため、1時間ごとに膀胱エコーで尿量を計り、排泄確率の高い時間帯でのトイレ誘導を行いました。感覚性失語(巻末参照)の影響から「トイレに行きましょう」の声かけで「トイレ」が何を意味するのか理解することが難しかったのですが、声かけと同時に指差しを行い、言葉と実際の物・場所を結び付ける作業を繰り返すことで、徐々に理解力が向上しトイレに行く習慣がつきました。また、失禁の際のパットの処理方法がわからず混乱がみられた為、何度も練習を行い、自分で処理できるようになりました。トイレでの排泄が成功する回数も増え、約3か月の入院期間を経て自宅退院となりました。
 退院後は、外来での作業療法(巻末参照)言語聴覚療法(巻末参照)を実施しています。退院当初は、奥様の声かけがなければ朝の整容、更衣が行えませんでしたが、行動をルーティン化し、徐々に「次何するんやった?」とご本人に思い出して頂く形での声かけ方法に移行していくことで、決まった時間に整容、更衣が自ら行えるようになりました。また、家事の練習も行い、今では洗い物、風呂掃除、掃除機かけ、家庭菜園の水やりなどがご本人の役割となっています。
 Aさんは、病前は社交的な方でしたが、現在は家族や慣れたスタッフ以外の人とのコミュニケーション機会が少ない状況です。このため、高次脳機能障がい当事者・家族の会を紹介し、先日参加されました。周りの方の話を十分には理解できませんが、少し自分から話しかけることができました。今後も、興味のある行事への参加を通しコミュニケーション機会の拡大につながればと考えています。

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退職後、単身生活と新規就労を目指し、医学リハ→生活訓練→就労移行支援と段階的に進んだ事例

 30歳代・男性
 症状記憶障がい・注意障がい・遂行機能障がい
 その他自己認識の低下、身体障がい無し

 Bさんは、単身で、コンピューター関係の会社で働いていましたが、30歳代の時に脳出血を発症しました。回復期病棟では理学療法(巻末参照)作業療法(巻末参照)言語聴覚療法(巻末参照)にて集中的に認知・身体機能に対する訓練を受けました。
 結果、身体機能に問題はなくなりましたが、依然、認知機能は低下しており、目標とする単身生活や就労といった日常生活、社会生活に課題が残ると考えられたため、自立訓練施設(生活訓練・以下、A施設)に入所されました。A施設では病院よりも活動量や自身で行動する場面が多いため、日中疲れて寝ていることが多い、集中が続かないプログラムがある、自主的に約束・時間通り行動するのが難しい等の課題が確認されました。また、「明日からでも仕事が出来る」と話すなど、自己認識も難しい状況でした。
 そのため、体力づくりとしての歩行訓練や認知訓練、記憶の代償手段としてのメモリーノート(コラム「代償手段(外的補助手段)の代表例」参照)訓練などを行いました。自身の状況についてはグループワークで他の利用者の状況を聞いたり、職員からのフィードバックを受けることで、少しずつ理解を進めることができました。
 また、単身生活に向けては外出訓練・生活実習(買い物・調理等)・家族見守りでの外泊訓練を行いました。その上で単身生活を開始し、A施設での訓練は通所へ切り替えました。また、A施設利用中に退職されていたため、新規就労を目指して障害者就業・生活支援センターに相談し、本人の状態にあった就労移行支援事業所を見つけてもらいました。少しの間、A施設と就労移行支援事業所とを並行して利用、情報交換しながら、メモリーノートをより仕事で使いやすいものに改善するなどの工夫を行いました。
 引き継ぎ期間終了後、就労移行支援事業所に毎日通われることになりました。そこでは、十分に確認できていなかった仕事においての具体的な課題(疲れやすさ、同時作業の難しさ、細かい手順忘れ等)が見出されました。
 そこで、施設内の作業や施設外の実習で訓練を進め、どのように課題へ対処するか、環境を整えるかということを支援者と一緒に整理していきました。また、訓練と並行して就職活動を行い、障がい者雇用で就職先がみつかりました。周囲の理解が十分でなかったり、新たな環境に慣れるのに時間がかかったりするなど、しんどいことも多いけれど、「働ける喜び」を感じながら頑張っておられるそうです。

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医療・福祉機関、家族が連携して、家事や子育てができるようになった事例

 30歳代・女性
 症状

記憶障がい・遂行機能障がい        

 その他

 Cさんは、毎日2人の子育てに励む日々を過ごされていましたが脳の病気で、記憶障がいと遂行機能障がいが残りました。さらにその障がいに起因して予定外のことが起きるとご自身の中で処理できず強い不安を持つという特徴のある方です。
 病院を退院して不安いっぱいの中での地域生活がスタートしましたが、通院でのリハビリテーションの段階から医療機関と自立訓練施設のセラピスト同士が情報共有を行い、障がい特性と回復経過とその後の地域生活像をイメージしていきました。失敗からくる不安の増大を避けるために、地域生活における困り事をできるだけ事前に整理し、医療から福祉へ一貫性のある支援ができる体制を作りました。
 退院当初には、同じ食材ばかりを購入してしまい冷蔵庫の中がいっぱいになることや買物帰りに道に迷い、ご自身の子どもに手を引いてもらって帰ることなどがありました。Cさんはご自身の失敗についてショックと嫌悪感を持つことで自信を失うことの多い状況となっていました。
 訓練は、まずできることを増やし自信を取り戻すことを目標に、実生活に即した内容のものを実施しました。
 例えば、チェック表や携帯電話をうまく使って通い慣れた近所のスーパーでの買物訓練や自宅の冷蔵庫の整理の訓練を行いました。家事をサポートするCさんの家族にもこれらの方法を伝え、周囲が同じ支援をできるよう調整しました。これらの積み重ねによりCさんのできることが増え、徐々に自信を取り戻すことができました。
 また、突発的な事象への対応が困難でしたが、困った時には予め決めておいた連絡先に携帯電話で報告と指示を仰ぐという方法で不安を感じる機会を減らすことができました。例えば電車の遅延など当初は対応できなかった事象でも次第に不安を感じることはなくなりました。
 現在は子育てに奮闘しながらも仕事についても復帰意欲を持たれ、障害者就業・生活支援センターとの連携を行いながら、職業評価や就労体験を通じて自分らしい生活の再建を目指されています。

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7.神経心理ピラミッド

図の通り、認知機能の働き方には順番があり、下の階層の機能は基礎であり、その上にあるすべての機能に影響する。高次脳機能の改善を図るには、上位にある高次脳機能ばかりに介入するのではなく、下位の覚醒(巻末参照)や疲労等を整える必要がある。この考え方を用いて、症状の理解や介入に役立てる。

例)
(1)ぼーっとしており新聞を読むことが難しい場合、まず目を覚ます必要がある。
(2)疲労しやすく仕事がすすまない場合、仕事の効率ばかりを追うのではなく疲労に配慮することが重要となる。

ラスク研究所神経心理ピラミッド

神経心理学的ピラミッド(旧版)((立神粧子 『前頭葉機能不全その先の戦略』医学書院2010) 大阪急性期・総合医療センターリハビリテーション科作業療法室により改変)

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8.神経心理学的検査

神経心理学的検査

このページの作成所属
福祉部 障がい者自立相談支援センター 身体障がい者支援課

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