学校における人権教育

更新日:2009年8月5日

2.学校における人権教育

(1)学校における人権教育の目標

 学校における人権教育の取組に当たっては、上に見た人権教育の目的等を踏まえつつ、さらに、人権教育・啓発推進法やこれに基づく計画等の理念の実現を図る観点から、必要な取組を進めていくことが求められる。人権教育・啓発推進法では、「国民が、その発達段階に応じ、人権尊重の理念に対する理解を深め、これを体得することができるよう(第3条)」にすることを、人権教育の基本理念としている。
 一方、各学校において人権教育に実際に取り組むに際しては、まず、人権に関わる概念や人権教育が目指すものについて明確にし、教職員がこれを十分に理解した上で、組織的・計画的に取組を進めることが肝要である。人権教育に限らず、様々な教育実践を進めるためには目標を明確にすることが求められる。それによって、組織的な取組が可能となり、改善・充実のための評価の視点も明らかになるからである。しかしながら、「人権尊重の理念」などの法律等における人権に関わる概念については、抽象的でわかりにくいといった声もしばしば聞かれるところである。
 人権尊重の理念は、平成11年の人権擁護推進審議会答申において、「自分の人権のみならず他人の人権についても正しく理解し、その権利の行使に伴う責任を自覚して、人権を相互に尊重し合うこと、すなわち、人権の共存の考えととらえる」べきものとされている。このことを踏まえて、人権尊重の理念について、特に学校教育において指導の充実が求められる人権感覚等の側面に焦点を当てて児童生徒にもわかりやすい言葉で表現するならば、[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]であるということができる。
 この[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]については、そのことを単に理解するに止まることなく、それが態度や行動に現れるようになることが求められることは言うまでもない。すなわち、一人一人の児童生徒がその発達段階に応じ、人権の意義・内容や重要性について理解し、[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]ができるようになり、それが様々な場面や状況下での具体的な態度や行動に現れるとともに、人権が尊重される社会づくりに向けた行動につながるようにすることが、人権教育の目標である。
 このような人権教育の実践が、民主的な社会及び国家の形成発展に努める人間の育成、平和的な国際社会の実現に貢献できる人間の育成につながっていくものと考えられる。
 各学校においては、上記のような考え方を基本としつつ、児童生徒や学校の実態等に応じて人権教育によって達成しようとする目標を具体的に設定し主体的な取組を進めることが必要である。

(2)学校における人権教育の取組の視点

 [自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]ができるために必要な人権感覚は、児童生徒に繰り返し言葉で説明するだけで身に付くものではない。このような人権感覚を身に付けるためには、学級をはじめ学校生活全体の中で自らの大切さや他の人の大切さが認められていることを児童生徒自身が実感できるような状況を生み出すことが肝要である。個々の児童生徒が、自らについて一人の人間として大切にされているという実感を持つことができるときに、自己や他者を尊重しようとする感覚や意志が芽生え、育つことが容易になるからである。
 とりわけ、教職員同士、児童生徒同士、教職員と児童生徒等の間の人間関係や、学校・教室の全体としての雰囲気などは、学校教育における人権教育の基盤をなすものであり、この基盤づくりは、校長はじめ、教職員一人一人の意識と努力により、即座に取り組めるものでもある。
 このようなことからも、自分と他の人の大切さが認められるような環境をつくることが、まず学校・学級の中で取り組まれなければならない。また、それだけではなく、家庭、地域、国等のあらゆる場においてもそのような環境をつくることが必要であることを、児童生徒が気付くことができるように指導することも重要である。
 さらに、[自分の大切さとともに他の人の大切さを認めること]ができるということが、態度や行動にまで現れるようにすることが必要である。すなわち、他の人とともによりよく生きようとする態度や集団生活における規範等を尊重し義務や責任を果たす態度、具体的な人権問題に直面してそれを解決しようとする実践的な行動力などを、児童生徒が身に付けられるようにすることが大切である。具体的には、各学校において、教育活動全体を通じて、例えば次のような力や技能などを総合的にバランスよく培うことが求められる。

  • (1) 他の人の立場に立ってその人に必要なことやその人の考えや気持ちなどがわかるような想像力、共感的に理解する力
  • (2) 考えや気持ちを適切かつ豊かに表現し、また、的確に理解することができるような、伝え合い、わかり合うためのコミュニケーションの能力やそのための技能
  • (3) 自分の要求を一方的に主張するのではなく建設的な手法により他の人との人間関係を調整する能力及び自他の要求を共に満たせる解決方法を見いだしてそれを実現させる能力やそのための技能

 これらの力や技能を着実に培い、児童生徒の人権感覚を健全に育んでいくために、「学習活動づくり」や「人間関係づくり」と「環境づくり」とが一体となった、学校全体としての取組が望まれるところである。

【参考】隠れたカリキュラム

 児童生徒の人権感覚の育成には、体系的に整備された正規の教育課程と並び、いわゆる「隠れたカリキュラム」が重要であるとの指摘がある。「隠れたカリキュラム」とは、教育する側が意図する、しないに関わらず、学校生活を営む中で、児童生徒自らが学びとっていく全ての事柄を指すものであり、学校・学級の「隠れたカリキュラム」を構成するのは、それらの場の在り方であり、雰囲気といったものである。
 例えば、「いじめ」を許さない態度を身に付けるためには、「いじめはよくない」という知的理解だけでは不十分である。実際に、「いじめ」を許さない雰囲気が浸透する学校・学級で生活することを通じて、児童生徒ははじめて「いじめ」を許さない人権感覚を身に付けることができるのである。だからこそ、教職員一体となっての組織づくり、場の雰囲気づくりが重要である。

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教育庁 人権教育企画課 人権教育グループ

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