大阪府人権教育推進計画 全文

更新日:2015年3月30日

「人権教育」とは

 「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(平12.12.6法律147)においては、人権教育を「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育活動」と、人権啓発を「国民の間に人権尊重の理念を普及させ、及びそれに対する国民の理解を深めることを目的とする広報その他の啓発活動(人権教育を除く。)」と定義しています。

 一方、「人権教育のための世界計画第2フェーズ(2010〜2014)行動計画」(国連人権理事会採択)では、人権教育を「人権という普遍的文化を構築するために行うあらゆる学習、教育、研修及び情報に関する努力」と定義しています。
 また、「人権教育と研修に関する国連宣言」(平23(2011).12)は、人権教育について次のように定めています。
第1条
1.すべての人は、人権と基本的自由について知り、情報を求め、手に入れる権利を有し、また、人権教育と研修へのアクセスを有するべきである。
第2条
1.人権教育と研修とは、人権及び基本的自由の普遍的尊重と遵守を目的に、人権の普遍的な文化を築き発展させることに人々が貢献できるよう、エンパワーするためのあらゆる教育、研修、情報及び啓発・学習活動から成る。それゆえ、人権教育は知識とスキルと理解を与え、態度と行動を育むことによって、とりわけ人権の侵害と濫用の防止に貢献する。

 この計画では、人権教育に人権啓発、研修を含めて用いています。

1 はじめに―人権教育の今日的意義―

 人権とは、長い歴史の中で人々が苦しみを乗り越えて獲得し、数多くの試練に耐えて守られてきたもので、日本国憲法をはじめ国際人権規約、人種差別撤廃条約等に示された具体的な規準です。そして、人権が尊重された平和な社会の実現は現在においても、また、将来においても、すべての人の変わることのない願いとして、最も優先度の高い政策指標です。
 人権を取り巻く内外の深刻な状況を直視したとき、人権の尊重とその確立は、人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する基本的な問題であり、その確立なしに真に実りある世界平和を達成することができないことを、改めて認識する必要があります。
 21世紀を「人権の世紀」としていくためには、国際連合や国の取組のみならず、地方自治体、企業、市民が同じ目的に向かって、それぞれの役割を適切に果たしていくことが不可欠です。
 このため、大阪府では、引き続き、すべての人の人権が尊重される豊かな社会(差別のない社会、個人としての尊厳が重んじられた社会、個性や能力を発揮し自己実現の機会が確保された社会)づくりに向けた施策の一つの柱として、人権文化が社会に浸透し、人権の視点が社会の仕組みに根付くことを目的とした人権教育を推進することとしています。
 それは、人権及び人権問題に係る知識を深めるだけではなく、人権を学ぶ過程で、府民一人ひとりの「なぜ?どうして?」という疑問にていねいに応え、人権侵害や差別を生み出すおそれのある慣習や人と人との間に生じる権力関係への「気付き」を促すとともに、現実に起こっている人権問題の解決に資する「技能と態度」を身に付けることを目指した取組でなければなりません。
 また、豊かな人権意識を育む観点からは、学習者自身が人権を守られ慈しまれることによって自らも人を愛し信頼することを学んでいく、共存の理念を大切にした学びの場が確保されていることも重要です。
 さらには、一人ひとりの価値観や生き方が多様化する中で、多くの人が伝統的な社会慣習や家族のあり方に寄せる心情にも配慮しつつ、個人がいかなる生き方を選んでも社会的に不利益とならないような取組も求められています。
 こうした意味で、人権教育とは、信頼関係のある学びの場の中で、府民一人ひとりがかけがえのない生命の尊さや痛み、あるいは人間の尊厳に思いを致し、人権を自らの課題として学ぶことを通した、差別のない、一人ひとりの人権が確立された社会の構築に向けた取組であると言えます。そして、次のような点を十分考慮したものでなければなりません。

○ 一人ひとりが人権尊重社会の実現に向けて、主体的な取組を行うことが求められています。同時に、具体的な人権上のニーズや問題を抱えた当事者の自立、エンパワメントを支援し、自己選択・自己決定できる環境を整備することが不可欠です。

○ 家庭や学校、地域等あらゆる機会や場をとらえて人権教育の取組に対する支援を行う必要があります。また、家庭や学校、地域等の中で、一人ひとりがかけがえのない存在として尊重され、人権尊重の理念が実践されていることが重要です。
 家庭は、人間関係を形成するための基礎的な力や社会規範・倫理観、豊かな感性を育むために重要な役割を担っており、その機能が適切に発揮されるよう、適切な支援が行われることが必要です。
 また、学校教育においては、すべての教育活動を子どもの人権尊重の観点から実施することが求められており、日本国憲法や国際人権規約をはじめ、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)、人権に関する法律・条例等の趣旨、内容を適切に踏まえて、子どもに対する指導が行われなければなりません。

○ 府民一人ひとりが、主体的に社会に参画するためには、自らの可能性を信じ、自己実現する力を養う「学び」の場が提供されていることが重要です。
 また、情報通信技術が急激に進歩しメディアの果たす役割、影響力が大きくなる一方の社会において、メディアを使って表現していく能力、様々な情報を主体的・批判的に読み解く能力(メディア・リテラシー)を高めることが、人権教育を進める上で重要です。
 さらに、個人情報の保護等についても、理解を深めることが求められています。

○ 現実に起こっている人権問題に対し、人権教育等に携わる者が具体的・実践的な対応力を持つことが重要です。人権侵害につながる兆しを見逃さず、適切な対応が図られるよう、一つひとつの事例から人権の課題を明らかにするとともに、人権教育に生かすための調査・研究の取組が図られなければなりません。

○ グローバル化の進展により、地域の中で暮らす外国人は増加し、文化や価値観の多様化が進む中、大阪がすべての人にとって快適な都市として発展していくためには、すべての人の人権が尊重されるとともに、言葉や文化、習慣の違いを認め合う社会を実現していくことが重要です。

 このような取組は、行政だけで進められるものではありません。すべての府民が主体となった社会全体の取組が重要です。とりわけ、社会に大きな影響力を持つマスメディアに従事する関係者の取組は不可欠です。
 府職員をはじめとする公務員については、自らの職務が人権尊重社会の実現を願う府民から負託されたものであることを自覚し、それぞれの業務の立案や事務執行、府民との応接等において、単に人権を守るだけでなく、人権の視点を重視し、人権が確立された社会の実現に努めることが厳しく求められており、他の主体以上に人権研修の取組は不可欠です。
 さらには、議会・行政委員会の関係者に対しても、人権に係る情報の提供に努め、教材や講師を紹介する等、それらの取組に協力していくことが不可欠です。

2 これまでの取組と評価

 大阪府では、国連や国の動向を踏まえ、平成9(1997)年に「人権教育のための国連10年大阪府行動計画」(平成13(2001)年3月に「後期行動計画」に改訂)を全国に先駆けて策定し、「あらゆる人々が、あらゆる機会・場において実施される人権教育を通じて、人権尊重の精神を当然のこととして身に付け、日常生活において実践し、人権という普遍的文化の創造をめざす」ことを基本理念に、人権教育の取組を進めてきたところです。
 中でも、平成10(1998)年に、人権尊重の社会づくりに関する府の施策を明らかにするとともに、人権施策(注)の推進の基本となる事項を定める等、今後の府政推進の基本となるものとして、「大阪府人権尊重の社会づくり条例」を施行し、平成13(2001)年3月には、この条例に基づき、府政推進の基本理念を定め、人権施策の概念、内容等を明確にした「大阪府人権施策推進基本方針」(以下「基本方針」といいます。)を定めました。
 そして平成17(2005)年3月に、「人権教育のための国連10年大阪府(後期)行動計画」の成果と課題を継承しつつ、基本方針が示した基本方向に沿った「人権意識の高揚を図るための施策」を着実に推進するため、その具体的な推進計画として、「大阪府人権教育推進計画」(以下「推進計画」といいます。)を策定し、総合的な推進を図ってきたところです。

(注) 条例では、「府民の人権意識の高揚を図るための施策及び人権擁護に資する施策」を「人権施策」と定義しています。

 推進計画では、「人権が尊重される社会基盤の構築」「人権教育の推進」と、大きく二つの取組の方向性を示しています。この間の取組とその評価は、おおむね次のとおりです。

(人権が尊重される社会基盤の構築)
 学校や職場、地域で人権問題についての学習経験がある人の割合は7割を超えていますが(平成22(2010)年実施 人権問題に関する府民意識調査)、子どもの貧困等様々な人権問題が新たに生起したり、インターネット上の差別表現やヘイトスピーチ等、人権尊重社会の実現に向けた取組と逆行する動きが大きくなっています。
 効果的な人権情報の発信や人権教育の内容の充実が引き続き必要です。内容的には、これまでの女性、子ども、高齢者、障がい者等の人権のほか、いじめ、ニート、引きこもり等、近年人権問題と意識されるようになった事象を取り上げることも必要です。
(人権教育の推進)
 人権尊重社会の実現に深い関わりを有している公務員、教職員、警察職員等に対する研修については、さらに充実を図る必要があります。
 人権教育を担う人材の養成については、養成講座の受講は進んでいますが、地域・職場で講師やリーダーとして実際に活動したり、学校とも連携するという点ではまだ十分ではありません。
 教材については、基本的なテキストや参加・体験型学習を進めるためのテキストを作成してきましたが、その活用を進めることが課題となっています。
 人権情報の提供については、情報誌だけでなく、インターネット等今日的・多様な媒体を活用し、効果的でタイムリーな情報提供に努める必要があります。

 また、人権教育・啓発をより効果的に進めるためには府民の人権に関する意識を正しく把握することが必要との認識の下、「人権問題に関する府民意識調査」を実施しています。
 直近(平成22(2010)年)の調査では、見えてきた府民意識の現状や人権教育・啓発の課題を踏まえ、今後の取組のポイントを整理しました。
 
 一方、この間の人権をめぐる状況については、特徴として次のようなことが言えます。
○人権問題が複合的に発生
 様々な人権問題が複雑に絡み合い、当事者がさらに困難な状況に置かれるといった事象だけではなく、子どもへの虐待の背景に両親間のDV(ドメスティック・バイオレンス)がある等、人権問題が複合的に発生しています。
○人権問題が背景となった生活困窮が進行
 社会的に不利な立場にある人が、急激な不況の中で、自殺や貧困等の社会的排除(経済面、人間関係、心理面)を受けています。
○情報化や技術の発展による差別や人権侵害の拡大が進行
 インターネットやSNSの発展により、インターネット上の差別表現がエスカレートし、ヘイトスピーチの拡大にもつながっています。
 また、安全かつ適正に取り扱われるべき個人情報が十分保護されず、時には犯罪に悪用されることがあります。
○人権尊重の取組が前進
 世界では、「人権教育のための国連10年」(1995〜2004)に続く取組として、「人権教育のための世界計画」行動計画が第1フェーズ(2005〜2009)、第2フェーズ(2010〜2014)と、切れ目なく策定・推進されるほか、障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)、ISO26000(注) の制定等がありました。
 国内では、平成12(2000)年公布・施行の「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づき、施策の総合的かつ計画的な推進が図られるとともに、条約批准に向けた国内法の整備(障害者基本法の改正、障がいを理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)の制定)やJISZ26000(注)の制定のほか、「いじめ防止対策推進法」や「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の制定等、新たに生起した人権問題に対し立法措置が講じられるようになっています。


(注) 国際標準化機構(ISO)が平成22(2010)年に発行した社会的責任に関する国際規約で、企業に限らずあらゆる組織が「一市民」として社会的責任(Social Responsibility)を果たしながら社会で活動していくための指針と言えます。7つの原則・7つの中核主題のいずれにも「人権(の尊重)」が挙げられています。

(注) ISO26000を基に、技術的内容及び構成を変更することなく作成された日本工業規格です。

3 推進計画の改定

 現行推進計画の計画期間は平成26(2014)年度までとなっています。引き続き「人権意識の高揚を図るための施策」の総合的な推進を図るため、これを改定し、平成27(2015)年度以降の推進計画とします。
 改定に当たっては、「2 これまでの取組と評価」で述べたことを踏まえ、次の3点に特に留意することとします。

(1)人権教育のさらなる充実
  ・参加・体験型の学習機会の充実
    府民の身近なところで参加・体験型の学習機会の普及を図る。
   ・研修内容の充実
    日常生活の中での出来事を題材としながら人権について考えられる等、研修の内容を工夫する。
(2)指導者の養成及び活用
   養成した人材を地域、職場等において活用できる方策を検討する。
(3)人権情報の効果的な提供
   受け手のニーズを把握し、効果的な情報提供ができるよう工夫する。

4 推進計画

 推進計画は、前述のとおり、基本方針が示す、「人権意識の高揚を図るための施策」に係る基本方向に沿った施策を着実に推進するための計画です。
 また、人権教育に関し府の様々な施策計画に対する上位計画、及び「国との連携を図りつつ、地域の実情を踏まえた人権教育及び人権啓発に関する施策を策定・実施する」という、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が定める地方公共団体の責務を府が果たすための基本計画の性格も併せ持つものです。

4−1 人権教育の推進

【基本方針が示す施策の方向】
 人権教育は、家庭、学校、職場、地域など、あらゆる場や機会をとらえて推進する必要があります。なかでも、人権問題を的確にとらえる感性や人権を重視する姿勢をはぐくむことが重要です。
 したがって、幼少期から生命の尊さや人の人たる道(人間として基本的に守らなければならないルール)に気づかせ、豊かな情操や思いやりをはぐくみ、お互いを大切にする態度と人格の育成をめざす人権基礎教育に取り組むことは、その後の成長に応じた人権教育を実効的なものとするうえで、大きな役割を果たすと考えられます。
 このため、人権啓発や同和教育の成果を発展させ、人権に関する学習の機会を、学校、職場、地域などで一層充実させるとともに、従来の知識習得型の学習から、人権に関する知識が態度や行動に結びつくような実践的な学習へと転換を図ります。
 さらに、人権が尊重される社会の実現に深くかかわる立場にある者が、常に人権尊重の意識や態度をもって、職務の遂行に臨むことが重要であり、大阪府職員をはじめとする公務員や教職員、警察官、医療関係者、福祉関係者等に対する人権教育を充実します。

(1)家庭、学校、地域、職場等における人権教育の取組に対する支援
○ 家庭や学校、地域、職場等あらゆる機会や場をとらえて、人権及び人権問題に係る知識を深めるだけではなく、人権侵害を生み出すおそれのある慣習や社会の仕組み等への気付きを促すとともに、人権問題の解決に資する技能と態度が身に付くような人権教育の取組に対する支援を行います。
 その際には、自己を肯定する自尊感情や、他者の立場や痛みを理解し、自己の権利とともに他者の権利を尊重することを学び身に付けることが、社会生活を営む上での基礎となるものであること、及び幼少期から生命の尊さや人の人たる道に気付かせ、豊かな情操や思いやりを育み、お互いを大切にする態度と人格を培うことは、その後の成長に応じた人権教育を実効的なものとする上で大きな役割を果たすものであることを踏まえます。
 また、人権教育が効果を上げるためには、まず、その教育の場自体において人権尊重が徹底され、人権尊重の精神が確立されている環境であることが求められることについて、理解を促します。

○ 人権侵害を受けた(受けるおそれのある)者をいかに守るかに重点を置いた教育のみでなく、他人の痛みが分かるような想像力や人権感覚(偏見や差別を見抜く力、差別を許さない心)、さらに、差別を解消するために主体的に行動することのできる技能や態度を身に付けることのできる教育を、今後とも推進します。

○ 府民一人ひとりが、違いを認め合い支え合うことのできる、豊かな人間関係づくりに向けた取組を支援します。

(2)教育の機会均等の確保と「学び」の場の充実
○ すべての人々が社会に主体的に参加できるようにするために、すべての子どもに、それぞれの状況に即して教育の機会均等の実現を図るとともに、興味・関心から学習への意欲を育成し学ぶ喜びを実感させ、自己選択に基づく学習と進路の保障を図ること等を通して、生涯学習の基礎となる力を育むという、人権としての教育の保障と、「学び」に欠くことのできない大きな役割を担っている学校教育について、今後とも、その充実に向けた取組を推進します。
 また、学校がすべての子どもにとって、安心して安全に学ぶことができ、同時に、一人ひとりの違いを認め合う感性や集団生活を通して自らの権利と義務を自覚する態度を育成する場所となるような取組を進めます。

○ 府民一人ひとりが、社会生活を営むために必要な知識や技能を身に付け、生涯にわたり自分らしい生き方を選択できるよう、地域、職場といった身近な場所において、自立とエンパワメントを支援する様々な学習活動の機会や場の充実を進めます。
 また、識字・日本語学習のような基礎教育の学び直し等の取組を促進します。

(3)現実に起こっている人権問題を踏まえた課題の共有・教材化
○ 人権学習を、学ぶ者にとって知識を深めるだけではなく、自分にも関わる事柄として認識を深め、人権問題の解決に資する技能と態度を身に付けていけるものとするため、人権相談事例等を通して明らかになった人権の現状や課題について、その背景や要因等を分析、整理するとともに、その結果を共有・教材化することにより、人権教育・啓発に生かしていく取組を進めます。

(4)多様な文化や価値観を持つすべての人々が共生できる人権教育の推進
○ あらゆる機会を通じて、共に生きることの大切さを学ぶ機会となる、異なる文化や価値観等に対する理解を促進するとともに、ヘイトスピーチを許さない社会機運が醸成されるような教育・啓発の取組を進めます。

(5)人権研修の推進・促進
○ 参加者の属性、具体的なニーズやレベルに応じつつ、人権尊重社会の構成員に求められる「知識・技能・態度」を身に付けることができる、多様で体系的な研修が行えるよう検討を進めるとともに、参加者の気付きを促し、技能と態度を培うことを目的とした参加・体験型の研修や、マイノリティの立場に置かれている当事者の体験や考え方に直接触れ、「人権問題を自らのことと受け止めることのできる」研修の取組を推進します。

○ 研修の内容については、「法の下の平等」、「個人の尊重」といった普遍的な視点からのアプローチと、具体的な人権問題に即した個別的な視点からのアプローチとを組み合わせるよう留意します。

○ 人権をめぐる国際的な動向や我が国での人権尊重の取組を学ぶ研修の取組を推進します。

〔公務員に対する人権研修の推進〕
○ 人権尊重の視点に立った府民との応対や業務執行等が自然体でなされるよう、様々な人権問題の背景や現状、課題について知的理解を図るだけではなく、豊かな人権感覚を身に付け、人権問題を的確に捉える能力・感性を適正に育むことを目的に、職員採用時から計画的な取組を進めます。
 研修に当たっては、参加者の職階ごとの育成目標や研修内容、手法等について定めたカリキュラムを策定することにより、参加者の具体的なニーズやレベル、業務内容に応じた多様な取組を進めます。また、その効果の検証に努め、さらなる改善に結び付ける等、研修の充実を図ります。

〔教職員に対する人権研修の推進〕
○ あらゆる教育活動が豊かな人権意識・人権感覚を持って展開できるよう、「人権教育基本方針・人権教育推進プラン」に基づき、人権教育を推進するとともに、学校において今なお人権侵害が生じている現状を踏まえ、研修の工夫・改善、それぞれの学校に即した研修の充実等、一層の取組を推進します。
 また、これまでの人権教育の取組の成果を継承しながら、研修カリキュラム等について検討を進めるとともに、その効果の検証に努め、さらなる改善に結び付ける等、充実を図ります。

〔警察職員に対する人権研修の推進〕
○ 採用・昇任時、専門教養のための警察学校及び職場におけるあらゆる機会を捉え、警察職員の職務倫理及び服務に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第1号)に定める基本的人権の尊重を柱とする「職務倫理の基本」に基づき、各種の職務倫理教養の一層の充実を図ります。

○ 人権尊重に配慮した府民応接活動、被害者への適切な対応、被疑者・被留置者の適正な処遇等についての人権研修を、引き続き実施します。

〔福祉・医療関係者に対する人権研修の促進〕
○ 子ども、障がい者、高齢者等に対する処遇や介護に直接当たる等、人権の保障に密接な関わりを持っており、人権について高い見識が求められている社会福祉施設の職員等の福祉関係者及びインフォームド・コンセント(注)の確立やプライバシーの保護、病歴等医療情報の秘密の保持等、患者一人ひとりの人権を尊重する医療の実現に携わる医療関係者が所属する法人や当該法人を構成員とする各実施主体等により幅広く実施されてきたこれまでの取組をさらに促進するため、関係団体との連携を図りながら、研修の充実に努めていきます。
 また、それぞれの職務内容に応じた研修が行われるよう、その内容の充実に向けた取組を促進するとともに、事例から学ぶ実践的な研修が行われるよう支援を行います。

〔民間団体、企業等における人権研修の促進〕
○ 人権が尊重された社会づくりを行うためにはその主体的な取組が欠かせない、社会の構成員として重要な役割を担う民間団体、企業等それぞれにおいて、人権研修が効果的かつ総合的に推進されるよう働きかけを行うとともに、各課題・分野等に即して、より柔軟かつ幅広い取組がなされるよう、内容・手法等について支援します。

○ 企業等に期待される社会的責任(Social Responsibility)の積極的・主体的な遂行の一環として、人権に関する法令がその活動の隅々にまで生かされる「コンプライアンスの取組」の促進を図るとともに、人権が尊重された社会づくりに積極的に貢献することが企業等の持続的な発展にもつながることへの理解が深まるよう支援を行います。

(注) 医師が患者に診断の結果や治療の必要性を説明する等十分な情報提供を行うことにより、患者が納得し同意してから治療することを言います。

4−2 人権教育に取り組む指導者の養成

【基本方針が示す施策の方向】
 府民が日頃から人権問題について考え、自主的・自発的にその解決に取り組むことが重要であることから、府民の身近なところで人権教育に取り組む指導者の養成や、人権教育を効果的に推進するために重要な役割を果たす専門的な指導者の養成を図ります。
 また、そのために、人権教育に関する諸機関との連携や支援に努めます。

(1)地域、職場等において人権教育を担う人材の養成
○ 地域、職場等において、身近な指導者として人権研修を担うとともに、人権教育に係る事業を企画立案・実施する力量を備えた、コーディネート役を担える人材及び参加・体験型学習の促進役であるファシリテーター(注)の養成を計画的に進めます。
 その際には、育成レベルや学習内容を明確にした人材養成プログラムを作成することにより、学習水準の確保に努めます。

(2)専門的知識を持った人材の養成
○ 個々の人権問題の原因・背景を分析し、人権教育の方法や教材、研修カリキュラムの開発等を通じて研究の成果を社会に還元し、及び身近なところで人権教育を担う人材の養成等人権教育を先頭に立って進めることが期待される、人権について高度な専門性と豊富な経験を有する人材の養成に向けて、機運の醸成を図ります。

(3)人材の活用
○ 養成した人材の活用及び人権を学ぶ者の具体的なニーズに応じた指導者の確保に資する講師リストの整備並びに市町村、関係機関等との共有を、引き続き進めます。

○ 府民が主体となった学習グループの形成や場づくりに成功したモデル事例を収集し、人材活用の観点から事例の検討を進め、学習の成果を他者に伝え広げていけるような人権教育の仕組みづくりに生かしていきます。


(注) 学習を進行するだけでなく、参加者の状況に応じて学習活動(アクティビティ)を用意し、進行しながら参加者の意見を引き出し、気付きを促しながら学びを深めていく役割を担います。

4−3  府民の主体的な人権教育に関する活動の促進

【基本方針が示す施策の方向】
 多様な文化や価値観を大切にしあう豊かな人権文化を創造するためには、府民の自主的・主体的な取り組みを促すとともに、地域においてさまざまな人々がふれあい、交流する場を増やし、相互理解を促進することが重要です。
 このため、NPOや企業等による人権教育や府民の交流・相互理解のための自主的・主体的な活動を促す環境を整備します。

(1)人権を知ること、考えること、行動することを支援する環境の構築
○ 一人ひとりの具体的なニーズに応え、日本国憲法や国際人権諸条約、人権に関する法律・条例等の具体的な人権関係規程の趣旨・内容や個別・具体的な人権問題の解決に際して利用することができる行政サービス・方策等、問題の発見から解決のための方策・手順等について、知ること、考えること、行動することを支援する環境づくりを推進します。

(2)NPO等民間団体と連携した取組の推進
  〔1〕NPO等民間団体の活動に対する支援
  ○ 人権に関する活動を行うNPO等民間団体(注)それぞれの活動事例についての研究発表・交流会等の機会と場の提供や活動内容の府情報誌への掲載等、団体の主体性に配慮しつつその活動を支援することにより、団体が府・市町村や府民、企業等様々な主体とのつながりを深め、活動の幅を広げていく取組を推進します。

  〔2〕連携・協働体制の構築
  ○ 人権に関する活動を行うNPO等民間団体と、十分な意見交換を通じて、機動性や自立性といったその特長を生かした連携・協働体制の構築を図ります。


(注) NPO法人以外に、福祉、保健・医療、教育、子育て、まちづくり、法曹等の様々な活動分野で人権相談、教育啓発等の人権に関する活動を行う団体その他研究団体や企業等の協議会組織も含みます。

4−4 人権教育に関する情報収集・提供機能の充実

【基本方針が示す施策の方向】
 人権教育は、大阪府のみならず、NPO・企業・学校・市町村などさまざまな主体により、対象者やニーズに応じてさまざまな機会を通じて実施されることにより、より効果を高めるものです。
 このため、人権教育の各実施主体に対して、必要に応じて人権教育についての知識・手法や講師・教材、あるいは活動事例等についての情報などが適切に提供できるよう、人権教育に関する情報収集・提供機能の充実を図ります。

(1)人権教育情報の収集・提供
○ 人権教育を目的とした映像や書籍、先進事例等の情報収集を図るとともに、広く市町村や民間団体、府民に、そのニーズに合致した情報を提供します。
 
(2)人権教育教材の開発
○ 国際人権条約をはじめ人権に関する法律、条例等の具体的な権利について理解を深めるものや人権救済・相談から見えてきた課題を「学び」に生かすため事例化したもの、自尊感情の大切さに気付かせるもの等、実践的な教材の整備を推進します。
 教材の開発に当たっては、人権を学ぶ者のニーズ、レベルを踏まえきめ細かく作成するため、人権関係機関との連携を深め、その内容の充実を図ります。

○ 地域、学校、職場等身近なところで活用できる、参加・体験型学習用の教材を、引き続き開発します。

(3)調査・研究機能の強化・充実
○ インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害、ヘイトスピーチ等新たな人権問題が生起する中、大学や民間機関においてメディア・リテラシーや表現の自由と人権尊重のあり方等様々な研究・アプローチが行われています。これらの成果を有効に活用し、新たな教材の作成等効果的な施策に結び付けていくよう、人権に関する世論について情報収集に努めるとともに、人権教育に係る研究者等との連携を深めていきます。

(4)人権意識の高揚につながる情報の発信
○ 府情報誌をはじめ、インターネットの積極的な活用等、あらゆる媒体を利用した積極的・継続的な情報発信を行います。
 情報発信に当たっては、人権相談等の施策と連携して、必要とされる情報を適切に提供するとともに、媒体や手法、緊急性等について絶えず点検を行い、効率的・効果的な施策推進を図ります。

5 推進計画のフォローアップ、点検

 様々な人権問題の現状や推進計画に基づく個別・具体の施策の実施状況については、毎年度、「大阪府人権施策の状況」(人権白書)を取りまとめ、公表します。
 また、国連や国の動向、府民のニーズや社会情勢の変化、法令・制度の変化等に対応するため、3年ごとに推進計画の内容を点検します。

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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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