人権問題に関する府民意識調査報告書(分析編) 3.3-3あるべき教育、啓発の提案

更新日:2023年5月24日

人権問題に関する府民意識調査検討会委員
大阪府立大学人間社会学部准教授 西田芳正

3.教育・啓発の受け止め

3-3あるべき教育、啓発の提案

■教育する側の姿勢に対する批判

 ここまで見てきたように、教育について肯定的に評価し、そのさらなる充実を望む声も少なくなかったが、その内容、取り組む側の姿勢については多数の批判や改善を求めるコメントが寄せられている。これらは、今後の教育や啓発活動を進めるにあたり十分留意すべきものである。
 まず、教育する側の姿勢を問うコメントを示す。小・中・高それぞれの学校段階で、さらには大学においても「逃げ」の姿勢を感じたという指摘があり、それも若い世代からなされている点は重要である。7例中6例を示す。

○ 問題だと取り上げる事項に対しての根本的な理解がされていないまま、物事を進めている様に思える。説明不足、若しくはそれでも良いと思っているのか。〔30歳代女性〕
○ 中学の時、ビデオを見ての同和教育を受け最後にこのような感想文を書いたことを覚えており、今現在も全く同じ考えを持っています。その時の文章が「教育の発信の仕方がうまくない、教師の説明も疑問を感じる、こんなかたちではいたずらに中学生の好奇心をくすぐり差別を逆に引き起こしかねない」と。今どのような教育をしているのかは知りませんが、その年代を考えた教育をしてほしいです。〔30歳代女性〕
○ 『にんげん』って教科書、あれは使うなら徹底して使うべきだと思う。全ての問題にいえるが、中途半端にしておくのはどうかと思う。同和問題も中途半端に学校側も教えたくない気満々だったと子供心ながら思ってたので。世代が代わって消える問題なら一切ふれない、学ばないといけないのなら、全学校で取りくんでいかないとと思う。この手の問題がデリケートで難しいのは分かっているけど、教える側(大学の講師という専門家)ですら尻ごみするのも、学生の時どうかと思った。大学で教職課程とってたときの事。〔20歳代女性〕
○ 実はあまり部落差別等の問題は学生時代にほとんど教わりませんでした。今、思い返すとかなりオブラートに包まれて教わっていたように思います(部落差別という言葉は使わず文書等に差別的な要素が使われている等)。そのため、同和問題と聞いてもピンとこないのですが、差別を受けている方々がこの世に存在している事は気分が良いことではありません。いつか解決できる日が来ることを心より願っています。〔20歳代女性〕
○ 学校教育の中でもっと授業等で取り入れるべき。しかし、授業は教員の偏見によっても授業が変わるので、教員の授業が統一されるべきである(研修会を設けるなど)。〔20歳代男性〕
○ 小、中、高校教育の中で時間をかけ同和、その他の差別問題を提起し啓発すること、また、教育者もこの問題に逃げることなく取り組む。〔年齢性別不明〕

■方法や内容についての指摘

 教育の内容については、「差別の悲惨さ」だけを繰り返し伝えられることについての疑問、批判が記されているほか、当事者との交流を望むなど、相互理解を促進する取組みの提案もなされている。

○ 差別されている人にスポットをあてて、いかに大変だったかを繰り返し聞かされることで、思いやりの心を生むとは思えません。「又か」と嫌気がさすだけです。それよりも人間の心はどうあるべきかの道徳、修身、哲学など古代から人類が考えてきたことを呈示しつづけて、考えさせる教育が必要だと思います。お金で成功した人でなく、人徳者として尊敬されてきた人のエピソードをよりたくさん聞かせる方が、差別に対する意識改善は自然に生まれると考えます。〔50歳代女性〕
○ 今までの私の経験から感想は啓発ばかりが印象的です。PTAなどの研修で同和地区の方の私達はこんな差別を受けていますという内容も毎年同じ様な話でこれで何か解決できるの?という印象です。〔50歳代女性〕
○ 同和と部落の違いも分からない今の時代の子供達に、差別という言葉だけを強烈に意識させる結果になると思う。こそこそとした教育ではなく、全てをはっきりと伝える事が必要で、もしそう出来なければ問題として取り上げるべきではない。時期を考え、理解を可能なかぎり求めるなら、提起側のしっかりとした考えがまとまってからでないと人は混乱します。〔30歳代女性〕
○ このアンケートに答える中で自分は人権問題に興味がある割に、あまり現状を知らないことに気づきました。でも、それは幼い頃から外国籍や障害を持った人達と抵抗なく関わってきたためでもあると思います。大人が地域や学校で口だけで教えるよりは、子供達が実際に当事者と会って話す中で自然と学んでいく、そんなスタイルの人権学習が一番効果的なのではないかと思います。しかし触れ合うだけではなく、悲しい差別の歴史や現状も同時に学ぶべきだと思います。ただし私が小・中学校で受けてきた教育には腫れ物にふれないように遠回しで具体的に欠ける表現で説明されて、結局子供の心に深く残る物が少なかったと思うので、例えば「同和地区とは〜あたりのことで、こんな差別を受けています」のように子ども達がしっかりイメージできるような言い方で教えるべきと思います。本気で差別をなくしたいなら、その問題に真剣に正面から向き合うべきだと思います。〔20歳代女性〕

 こうした記述は8例であったが、その中には、教育や啓発を離れて、地区内外の住民の交流が問題を解決する上で重要なのではないかとする指摘が3例見られた。「情報が氾濫して何が正しいのかが解らないのが現実です。大切なのは、セミナーや講演会でなく、運動会やキャンプ、エコ活動などイベントを主催していただき、その中で意見交換をするなど。」〔50歳代男性〕、「文化交流の場をもうけて、いろいろなイベントなどを行っていけばいいと思います。」〔30歳代男性〕などである。 

■歴史についての知識を

 では、教育、啓発活動についてどのような内容が求められているのか。この点で多く指摘されているのが、同和問題の歴史についての認識を深めるべきだというものであった(8例)。

○ 歴史教育。差別の根源は経済問題、憲法にある最低生活の保障がどこまで実現できるかである。〔60歳代男性〕
○ 自分自身の中に差別意識があるのも事実ですが偏見をといていくには正しい歴史認識も含めた相互理解しかありません。重い問題ですが啓蒙・啓発に際しては、より親しみやすい手法をお考えいただければよいのではないかと考えます。〔50歳代男性〕
○ 同和問題は、国の政策により職業と地域の区別により育って来た。現在に至っては、世代に受け継がれた同和という差別になってしまっている。差別(歴史から始まって現在に至るまでの)についての正確な情報を次世代に伝える事が、同和問題に対しては有効であると思う。私は同和という表現に、同じではないという感じを受けます。子供達には、正確な歴史の情報を受ける義務があるし、その上で逆差別等の政策の行き違いが生じない事が有効ではないか。〔40歳代女性〕
○ 同和問題のことを聞いたことがありますが、その地区がどのへんか聞いてもはっきりとは教えてもらったことはありません。どうしてそんな差別ができたのか、まず歴史を知らなければいけないと思います。そういう特集などTVなどみんながみる環境をつくってそれから話し合いをしてそういう地区をなくそうと訴えることがいいのではないかと思います。〔40歳代女性〕

 ■情報の不足、情報発信が必要

 教育というよりも啓発活動の課題としての指摘であろうが、同和問題や行政の取組みについての情報が伝えられていないことへの不満も指摘されている(8例)。本章の最後に改めて取り上げることになるが、「逆差別」意識の広がりを踏まえれば、どのような情報がどのような形で伝えられることが必要なのか、十分な検討が求められる。

○ 同和地区に暮らした事も、友人、知人も居りませんので実際どの様な問題が起きているのか解りません。すべてうわさ話程度です。広報などで正しい情報を知らせてくれたら良いと思います。誤解している事がたくさんあるのではと思います。〔70歳以上女性〕
○ 問7【個別の人権問題に関する行政の取組み状況の変化を問う設問】に対して、日常的にほとんど情報が無い(一般人には)。役所と一部関係分野の人の間で止まっているのでは。〔60歳代男性〕
○ 同和問題は現状どの程度の問題があるのか知らない人が多いと思います。現状を知っていただくことが必要かと思います。〔50歳代男性〕
○ こういう問題は普段生活しているとあまり目にしないような気がするのですが、ニュースで取り上げられてる事も少ないような気がしますし、恐らくこの封書がこなければ考えなかった問題だと思います。もっと積極的に発信していく問題ではないでしょうか。〔30歳代男性〕
○ 見えてこない。伝わってこない。なにか活動しているの?〔30歳代男性〕
○【同和問題について結婚後に知った。実家近くにはなかった】どこで情報公開されているとか知らない事がたくさんあります。〔20歳代女性〕



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このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ

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