人権問題に関する府民意識調査検討会委員
神戸学院大学文学部教授 神原文子
最初に、人権意識や差別意識を測る尺度を作成することにします。
問1は、府民の人権意識の程度を測るために用意された項目群です。主要な個別の人権問題12項目それぞれについて、「問題あり」と回答した場合は人権意識が高く、「問題なし」と回答した場合は人権意識が低いと想定されます。
ただ、これら12項目のいずれが府民の人権意識の程度を測定する上で妥当で有効な項目であるかという判断がつかず、また、12項目を個別に分析に用いることは集計が煩雑になるだけで明確な知見が得られるかどうか疑問です。そこで、これら12項目を組み合わせて、人権意識を測る尺度を作成することにします。
尺度を作成するために、因子分析※という多変量解析の方法を用いることにします。問1を例にとれば、人権意識に関する12項目の中に潜む、複数の項目に共通する因子を見つけるというものです。因子分析によって、複数の項目に共通する因子(問1では第1因子から第3因子)と、それぞれの因子に強く反応する項目群が確定されたら、それらの項目群に対する回答をもとに尺度を作成することになります。
※多変量解析の一種で、データを要約するために用いる手法であり、変数間の相関関係から潜在的ないくつかの共通する因子を抽出し、データ(変数群)を潜在因子に分解する方法です。
表2-1-1 主要な個別の人権問題に関する基本的な意識の状況 因子分析結果
いろいろな人権問題に関する考え方 | 第1因子 | 第2因子 | 第3因子 |
問1(3)外国人であることを理由に、マンションなど住宅の入居を拒否すること | 0.770 | 0.046 | 0.164 |
問1(4)障がい者であることを理由に、マンションなど住宅の入居を拒否すること | 0.698 | -0.027 | 0.207 |
問1(1)ホテルや旅館がハンセン病回復者などの宿泊を断ること | 0.568 | 0.019 | 0.179 |
問1(2)結婚する際に、興信所や探偵業者などを使って相手の身元調査を行うこと | 0.530 | 0.168 | 0.072 |
問1(7)景気の悪化などを理由に、まず外国人労働者から解雇すること | 0.455 | 0.123 | 0.249 |
問1(12)教師が子どもの指導のために、ときには体罰を加えることも必要だと考えること | 0.051 | 0.874 | 0.172 |
問1(11)保護者が子どものしつけのために、ときには体罰を加えることも必要だと考えること | 0.110 | 0.772 | 0.065 |
問1(6)犯罪被害者やその家族の氏名や住所を、本人の了解なしに報道すること | 0.149 | 0.066 | 0.545 |
問1(10)親の世話や介護は、女性の役割だと考えること | 0.188 | 0.101 | 0.433 |
寄与率 | 21.8 | 15.8 | 7.6 |
累積寄与率 | 21.8 | 37.6 | 45.2 |
クロンバックの信頼性係数α | 0.762 | 0.817 | 0.417 |
因子解釈 | 排除問題意識 | 体罰問題意識 | 人権軽視問題意識 |
因子抽出法: 主因子法 回転法: Kaiser の正規化を伴うバリマックス法 |
12項目について、因子分析の手法としてオーソドックスな「主因子法」を用いて「バリマックス回転」を行い、「因子負荷量」が経験上の目安として0.4未満しか示さない、因子への反応の弱い項目や、一義性に欠ける(複数の因子に強く反応する)項目を省きながら因子分析をやり直しました。表2-1-1が、最終的に得られた結果です。
第1因子は、「外国人であることを理由にマンションなど住宅の入居を拒否すること」、「障がい者であることを理由にマンションなど住宅の入居を拒否すること」、「ホテルや旅館がハンセン病回復者などの宿泊を断ること」、「結婚する際に興信所や探偵業者などを使って相手の身元調査を行うこと」、「景気の悪化などを理由にまず外国人労働者から解雇すること」という5項目が高い因子負荷量を示しています。このことから、「排除問題意識」因子と解釈することができます。
第2因子は、「教師が子どもの指導のために、ときには体罰を加えることも必要だと考えること」、「保護者が子どものしつけのために、ときには体罰を加えることも必要だと考えること」の2項目が高い因子負荷量を示しています。そこで、「体罰問題意識」因子と名付けることにします。
第3因子は、「犯罪被害者やその家族の氏名や住所を本人の了解なしに報道すること」、「親の世話や介護は女性の役割だと考えること」の2項目が比較的高い因子負荷量を示しています。ただ、これら2項目に共通する潜在的意味を考えることは難しく、暫定的に「人権軽視問題意識」因子と名付けることにします。
次に、各因子に強く反応している項目を用いて尺度を作ることができるかどうかを確かめる必要があります。具体的には、各因子に反応している項目が「一次元上にある」かどうか(尺度を作成するに当たって、測定に用いる各項目が同じ特性を有していると判断できるかどうか)を確かめるために、「クロンバックの信頼性係数」※を求めます。「一次元上にある」ほど値は1に近付くことになります。
※クロンバックの信頼性係数:アンケート調査などで,対象とする領域のある特性を測定するために複数の質問項目への回答の合計値(特に尺度得点と呼ばれる)を使う場合、尺度に含まれる個々の質問項目が内的一貫性を持つかどうかを判定するために用いられる測定方法の一種。
第1因子に係る5項目については0.762、第2因子に係る2項目については0.817となりました。これらは、おおよその目安である0.7以上であることから、尺度を作成することに問題ないと判断できます。
しかし、第3因子に係る2項目については0.417であり、数値が低いことから、尺度化を見合わせることにします。「犯罪被害者やその家族の氏名や住所を本人の了解なしに報道すること」はプライバシー侵害を問題とする意識であり、「親の世話や介護は女性の役割だと考えること」はジェンダーを問題とする意識ではありますが、それぞれ1項目では尺度として用いるには十分とはいえません。同様の調査では、これらの人権問題についても測定できるように、質問項目の検討が必要であることを記しておきます。
「排除問題意識」と「体罰問題意識」について尺度を作成する上で、それぞれの因子に反応する項目に対する回答について、「問題あり」4点、「どちらかといえば問題あり」3点、「どちらかといえば問題なし」2点、「問題なし」1点と点数化します。第1因子では5項目に対する回答の平均値を求め、「排除問題意識」度と捉えることにします。平均値が高いほど社会的排除を問題とする意識が高いということになります。平均値3.1、標準偏差0.6です。同様に、第2因子は「体罰問題意識」度と捉えることにします。平均値が高いほど体罰を問題とする意識が高いということになります。平均値2.4、標準偏差0.9です。
2つの人権意識を比べると、府民の「排除問題意識」は結構高いといえますが、「体罰問題意識」はそれほど高くないことがわかります。言い換えれば、体罰を問題と思っている人が多くないということです。
詳細な分析に先立ち、回答者の基本的属性と「排除問題意識」および「体罰問題意識」との関連をみておきます。
表2-1-2 性別と人権意識
性別 | 排除問題意識度 | 体罰問題意識度 | |
全体 | 平均値 | 3.1 | 2.3 |
度数 | 750 | 761 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
男性 | 平均値 | 3.1 | 2.2 |
度数 | 370 | 374 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
女性 | 平均値 | 3.0 | 2.5 |
度数 | 380 | 387 | |
標準偏差 | 0.7 | 0.9 | |
F検定結果 | − | P=.000 *** |
表2-1-3 年齢と人権意識
年齢 | 排除問題 | 体罰問題 | |
意識度 | 意識度 | ||
全体 | 平均値 | 3.1 | 2.3 |
度数 | 748 | 759 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
20歳代 | 平均値 | 3.2 | 2.4 |
度数 | 56 | 57 | |
標準偏差 | 0.7 | 1.0 | |
30歳代 | 平均値 | 3.2 | 2.3 |
度数 | 99 | 99 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
40歳代 | 平均値 | 3.2 | 2.2 |
度数 | 121 | 122 | |
標準偏差 | 0.5 | 0.9 | |
50歳代 | 平均値 | 3.1 | 2.3 |
度数 | 128 | 129 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.8 | |
60歳代 | 平均値 | 3.0 | 2.4 |
度数 | 179 | 182 | |
標準偏差 | 0.7 | 0.9 | |
70歳以上 | 平均値 | 3.0 | 2.4 |
度数 | 165 | 170 | |
標準偏差 | 0.7 | 0.9 | |
F検定結果 | P=.003 ** | − | |
表2-1-4 学歴と人権意識
学歴 | 排除問題 | 体罰問題 | |
意識度 | 意識度 | ||
全体 | 平均値 | 3.1 | 2.3 |
度数 | 741 | 751 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
中学校 | 平均値 | 2.9 | 2.4 |
度数 | 120 | 121 | |
標準偏差 | 0.8 | 1.0 | |
高等学校 | 平均値 | 3.1 | 2.3 |
度数 | 335 | 342 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.8 | |
短大・ | 平均値 | 3.1 | 2.4 |
高等専門学校 | 度数 | 132 | 132 |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
大学、大学院 | 平均値 | 3.1 | 2.3 |
度数 | 154 | 156 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
F検定結果 | P=.030 * | − |
表2-1-5 職業と人権意識
職業 | 排除問題 | 体罰問題 | |
意識度 | 意識度 | ||
全体 | 平均値 | 3.1 | 2.3 |
度数 | 806 | 820 | |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
自営業 | 平均値 | 2.9 | 2.2 |
度数 | 115 | 114 | |
標準偏差 | 0.7 | 0.9 | |
公務員、教員 | 平均値 | 3.1 | 2.5 |
度数 | 25 | 25 | |
標準偏差 | 0.8 | 1.1 | |
民間企業・ | 平均値 | 3.2 | 2.4 |
団体の経営者・ | 度数 | 21 | 21 |
役員 | 標準偏差 | 0.4 | 1.1 |
民間企業・団体 | 平均値 | 3.2 | 2.3 |
(従業員25人未満) | 度数 | 32 | 32 |
の勤め人 | 標準偏差 | 0.6 | 0.8 |
民間企業・団体 | 平均値 | 3.1 | 2.2 |
(従業員100人未満) | 度数 | 41 | 42 |
の勤め人 | 標準偏差 | 0.6 | 0.8 |
民間企業・団体 | 平均値 | 3.3 | 2.3 |
(従業員300人未満) | 度数 | 29 | 29 |
の勤め人 | 標準偏差 | 0.5 | 0.9 |
民間企業・団体 | 平均値 | 3.2 | 2.2 |
(従業員300人以上) | 度数 | 96 | 97 |
の勤め人 | 標準偏差 | 0.6 | 0.8 |
非正規雇用 | 平均値 | 3.1 | 2.4 |
従業員 | 度数 | 108 | 110 |
標準偏差 | 0.6 | 0.9 | |
家事専業・無職 | 平均値 | 3.0 | 2.4 |
度数 | 339 | 350 | |
標準偏差 | 0.7 | 0.9 | |
F検定結果 | p=.034 * | − |
表2-1-2から2-1-5から、排除が問題であるという意識については、性差はみられないが、年齢が低いほど問題であるという意識が高い傾向にあること、学歴は高いほうが問題であるという意識が高い傾向にあり、職業では自営業よりも民間企業・団体の勤め人において排除意識が低い傾向がみられます。また、体罰が問題であるという意識については、性別による有意差がみられ、男性よりも女性のほうが問題であるという意識が高い傾向にあること、また、学歴や職業においては有意差がみられないことがわかります。
ここで、「排除問題意識」と「体罰問題意識」との関連をみておきます。
表2-1-6 排除問題意識と体罰問題意識との相関
排除問題 | 体罰問題 | ||||
排除問題意識 | Pearsonの相関係数 | 1 | .180 | ** | |
有意確率(両側) |
| .000 | |||
N | 829 | 828 |
| ||
体罰問題意識 | Pearsonの相関係数 | .180 | ** | 1 | |
有意確率(両側) | .000 | ||||
N | 828 | 846 |
| ||
**.相関係数は1%水準で有意(両側)です。 |
表2-1-6から、人権意識として捉えることのできる「排除問題意識」と「体罰問題意識」との間に統計的に有意な関連のあることがわかります。ただ、相関係数は.180で、それほど大きい数値とはいえないことから、「排除問題意識」の高い人が自ずと「体罰問題意識」も高いとはいえない、と解釈できます。
【知見】
○「排除問題意識」は、性差はみられないが、年齢では低いほど、学歴では高いほど、職業では自営業よりも民間企業・団体の勤め者において高い傾向がみられる。
○「体罰問題意識」は、男性より女性のほうが高い傾向にあるが、年齢による差はみられない。学歴や職業による差もみられない。
このページの作成所属
府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ
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