平成23年8月30日(火) 午後1時30分 から 4時30分
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大阪城スクウェア 大手前ホールC、D
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(1) 講 演
テーマ:「これからの家庭教育支援」 講演の内容はこちら
講 師:追手門学院大学心理学部 教授 三川 俊樹さん
(2) 班別学習
テーマ:「これからの家庭教育支援を考える」
ファシリテーター:追手門学院大学心理学部 教授 三川 俊樹さん
(3) 閉講式
閉講のあいさつ 大阪府教育委員会事務局
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54人 (親学習リーダー15人、家庭教育支援チーム員16人、学校園教職員13人、行政6人、地域協3人、民生委員1人)
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三川先生の講演「これからの家庭教育支援」
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三川先生の講演に熱心に 三川先生によるワーク
聴き入る受講者の皆さん 「これからの家庭教育支援を考える」
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ワークは和やかな雰囲気の中、 「チーム」での取組みについて
自分の役割を考えながら進行 まとめの話をされる良原先生
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・背景として…社会の都市化、核家族化や少子化、家庭内も地域も人間関係が希薄化していること、世代間の価値観のギャップ、働くことや生きることをめぐっての意識や実際の働き方・生き方の変化、子育て情報の氾濫や混乱など。
⇒これらの要因が複雑に絡み合っているから、どれかの要因を取り上げてその改善や解決を図ることは難しい。
複合的な要因の絡まりの中で、家庭の養育力・教育力の低下が起きている。
・現象として…「子どもへの接し方・子育ての仕方が分からない」(「子育て不安」)、「子育てが思い通りに進まない」(「子育て不満」)、無責任や放任、虐待など。
⇒子どもたちの「育ちそびれ」として、家庭生活から集団生活への移行というところ(保育所・学校園)で顕在化してくる。
子どもたちが落ち着かない、生き生きとした子どもらしさが感じられない、表情がさえない、朝から「しんどい」と訴えて机に付している…など。
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・家庭教育は「すべての教育の出発点」
・基本的な生活習慣・生活能力、人に対する信頼感、豊かな情操、他人に対する思いやり、善悪の判断、こういった基本的な倫理観、自立心や自制心、社会的なマナーなどの芽や基礎を養う上で重要な役割を担うものであり、人生を自ら切り開いていくうえで欠くことのできない職業観・人生観を培うものである。
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・「家庭の教育機能」とは、「家庭において子どもの心身の健やかな発達を促進する機能」
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・保育所の子どもに関わる家庭支援は、「家庭養育」の支援(「家庭養育」「家庭の養育力」という用語を用いる)
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・「家庭の教育機能総合支援モデル事業」について、当時大阪府内42市町村のうち、35市町で展開。4年間継続した事業。
・平成14年度は高槻市と貝塚市の2市でスタート。最初は、1年間の見通し。 ⇒ 1年取り組むと、大きな効果が期待できると感じられた。
・継続事業となり、2年目は寝屋川、八尾、羽曳野の3市を加えて、5市に事業を展開したところ、大きな変化が生じた。
一番のポイントは、子どもの育ちそびれの背景にある。保護者の成長・発達を促進したということである。結果、子どもの問題を解決したり、学校の機能を活性化したり、いろんな形で成果が波及効果を生み出した。
子どもは元気になり、学校も元気になった。(保護者をサポートする事業の、副次的な効果)
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・子どもたちが育ちそびれたまま学校へ来る ⇒ 問題行動や学校不適応という現象を表面化させる ⇒ 学校教育で取り組む ⇒ 取り組む以上は、保護者との接点が持てる。これが大事なポイントである。(「子どもを通した保護者の支援」)
・子どもの問題が表面化したとき、解決に関与しながら、背景にある保護者の養育力・教育力の低下に関わる絶好のチャンスが到来したと捉える。子どもがひとりで学校に行けないという一報が入ると、サポートチームが学校に連れて来るという表面的なサポートを行うが、ここで保護者との接点が持てる。保護者に代わって一緒に行く準備をして、学校に行くサポートをすると、保護者や家庭の様子がよく分かる。
・親が不甲斐なさを感じるだけの相談や家庭訪問はしない。ほっとして帰ってもらうために伝えなければならない情報は、子供の成長の情報(「おみやげ」)である。遅刻してでも学校に来たら、これは集団生活ができるという面で成長している。子どもの良い面、成長した面を読み取って保護者に気づいてもらう。その成長をもたらした家庭の養育・教育と結びつけてフィードバックすることが大切なポイント。マイナス面を指摘されて乗り越えるのではなく、ほめられてもっと頑張ろうという気持ちが成長につながる。
・サポーターは保護者に寄り添いながら共に考えるという支援を行う。サポーターは主に地域の方で、地域のことを理解した上で、保護者の気づきを促して支援を行う。サポーターがしていることは、子どもたちの送り迎えをしたりして立ち話をするように子どもの成長を伝え、帰ってくるというようなこと。このように受容、共感することによって、保護者を「エンパワメント」する。成長をもたらすに至った努力を労い、保護者の自尊感情を高められるようにする。
・効果が期待されることは、丁寧に徹底的に行う。家庭訪問時に「今日は送って行ってあげよう」というような場合、急な思い付きではなく、「今日はこのネタを保護者に伝える」という目的をもって行かなければならない。これをさりげなく回を重ねて丁寧に継続することが大切。時には子どもの作品を持って行き、「お母さんが来てくれたら、参観日に見てもらうんだ」とつぶやきながら、一生懸命頑張っていることを伝えるようにする。
・サポートチームの1人に、学生のボランティアがいた。この大学生は学校での授業に寄り添い、先生やほかの子どもの前では言わないつぶやきを聞き取り、もう一人のサポーターを通して保護者に伝えた。すると、授業参観に1度も行かなかった保護者も行ってみようという気になった。
これで実際に来られた事例もある。
・子どものいないときに訪問するのも1つの方法。「近くを通ったので」というように、何気ない、さりげないことが大事。
・「家庭の教育機能総合支援モデル事業」は不登校対策の事業ではないが、保護者の成長や発達を促すということが、結果的に不登校対策にもつながった。
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・家庭に変化があった。子どもの成長を親の努力や苦労と結び付けてフィードバックし、エンパワメントしたということ。さらには、子ども理解が深まるような材料を伝え、子ども中心の生活となり、子どもとの会話が増えるという変化につながった。また、学校に対する信頼感が高まった。課題が大きい場合には、専門機関を活用できるように関係を繋いだことも功を奏した。
・家庭の養育力・教育力を向上させたとき、子どもに一番顕著に変化が現れる。不登校の数の減少がそれにあたる。子どもの生活のリズムが好転し、意欲的に学習するようにもなる。毎日学校に来ることで交友関係が深まり、人間関係ができる。このようにして、子どもの心は確実に成長する。
・学校も変化した。元々学校を変えるためではなかったが、取り組んだ学校は、一丸となって課題に向かうという姿勢ができた。
・かつて家庭は学校に対して不信感を持っていて、一方学校側は子育ては家庭の責任として、家庭と学校の溝は深まるばかりだった。地域とのつながりも持てず、そこに落ち込んだ子どもはすくい取れなかったが、今回の取組みによって学校と家庭が結び付き、人間のネットワークができることで、子どもが落ち込んでしまうことが少なくなり、もし落ち込んでも周りに「セーフティネット(現在はセーフティメッシュ)」が張り巡らされていて、共通理解から協働へと向かっている。
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1 コミュニケーション(Communication):家庭支援のためには、保護者対話による情報収集や理解を図りつつ、対応を考えるということ。
2 カウンセリング(Counseling):「受容」と「共感」を基礎にした、継続的な心理的サポートを行うこと。
3 コーディネーション(Coordination):複数の援助者が、その役割や責任を認識した上で連携の調整をするということ。
4 コンサルテーション(Consultation):関係者どうしの共通理解を基礎にして、今後の援助のあり方を検討するということ。自らの知恵や配慮、工夫を提供し合う。
5 コラボレーション(Collaboration):知恵・配慮・工夫が同じ共通理解をもとに話し合われることで、関係者が協力関係をもとにチーム支援を行うということ。
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・コンサルテーションとは、一人ひとりの子どもの成長と発達の援助のために、それぞれの担当者が自らの固有の専門性を認識し、互いに対等な関係において尊重し合い、それぞれの専門性と固有性をより活かしていくために、互いに情報や素案を提供し合い、助言を求め合う活動。これが、チーム支援。先の学生ボランティアの例がそれにあたる。学生ボランティアの役割を大学教員が担うことはできない。これが、固有の専門性。一見すると専門家には見えないが、大きな役割を担っている。
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・正確な知識や情報の伝達がスタート。これによって、孤立が防げる。有効だった取組みを披露し、自尊心や有能感を回復できる。対処方法のプラス面を労い、ほめることで、これが生きた情報や知恵として結晶化される。
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・援助が難しい場面になると、「どうしていいかわからない」「何をしてもうまくいかない」…など、「ないないづくし」におちいる。
・うまくいくためには、「ない」ものではなく「ある」ことに注目する。うまくいった取組みが何だったかをきちんと話し合って、まとめていくと、「家庭支援の6か条」になった。「あいさついがいにもう一言!」「子どもも保護者も職員も、みんなホットに!」…など。
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・「(子どもの姿などを)よりわかりやすく保護者に伝える」「常に“おみやげ”を意識するようにする」…など。
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・「仲よく・ほめて・積み重ね」と表現したい。
「積み重ね」とは、できることをできる範囲で行い、丁寧に積み上げていくこと。できないことを無理して続けても、長続きしない。
「ほめて」とは、子どもの成長・発達をほめることによって、親の苦労・努力などの思いに結び付けてフィードバックするという「おみやげ」を忘れないこと。
「仲よく」とは、丸投げ・丸抱えせず、ひとりでは絶対対応しないということ。「二重丸は命取り」である。最近はこの言葉に替えて、「1人作業は絶対にしない、させない、許さない」と言うようになった。ある工事現場の標語だが、これこそ家庭支援になければならない合言葉。
このコラボレーションマインドを大事にしながら、家庭教育支援を進めていただきたい。
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このページの作成所属
教育庁 市町村教育室地域教育振興課 社会教育グループ
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