14ページ  第3章「ともに学び、ともに育つ」学校えんづくり 「ともに学び、ともに育つ」学校えんづくりのためのポイント ● 一人ひとりがお互いを尊重し、ちがいを認め合い、支え合う学級集団づくりに努める。 ● 支援教育コーディネーターが中心となり、校えん内委員会等の学校全体の支援体制のもとで、 支援の必要な子どもの教育的ニーズに応じた指導・支援を進める。 ● 障害のあるすべての子どもたちの「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」を作成・活用し、きめ細かな指導の充実を図る。 ● 障害のあるすべての子どもへの理解を深め、交流及び共同学習の推進やユニバーサルデザインの観点を取り入れた学校えんづくり・授業づくり・集団づくりの充実をより一層図る。 ● 教職員の専門性を高めるため、支援学校のリーディングスタッフや市町村のリーディングチームと連携し、校えん内研修等の充実を図る。 ● 校種間連携や関係機関との連携を図る。 1.学校えん全体で取り組む総合的な体制づくり  (1)教職員の共通認識を図る5つのポイント すべての子どもが「ともに学び、ともに育つ」学校えんづくりを進めていくためには、教職員全体で共通認識を図る必要があります。そのポイントは、以下のとおりです。 1子どもの困り感や子ども一人ひとりの教育的ニーズの把握 障害のある子どもを支援、指導するにあたっては、学校えんの全教職員が、その子どもの困り感や教育的ニーズなどを的確に把握することが重要です。 2保護者の願いの受けとめ 保護者からは、生育歴や家庭や地域での生活状況などは言うまでもなく、本人の希望や保護者の子育てかん、将来の希望など、思いや願い、そして悩みをしっかり受けとめることが大切です。 3「個別の教育支援計画」・「個別の指導計画」の作成とPDCAサイクルによる活用・充実 「個別の教育支援計画」は、学校えん・保護者・関係機関の連携により、子どもの継続的な支援のためのツールとして、支援学校や支援学級在籍の子どもに限らず、発達障害など支援を要するすべての子どもを対象に、校えん内委員会等での検討を経て、保護者の参画のもと作成します。活用にあたっては、全教職員に共通認識を図るとともに、PDCAサイクルにより子どもの変化に伴い定期的な見直しを行うことも必要です。 「個別の指導計画」は、子どもの学習や活動を支える指導・支援のためのツールとして複数の教職員により作成・活用します。 15ページ 4支援教育コーディネーター・支援学級担任・通常の学級担任の役割と連携の明確化 「関係諸機関や校種かんの連携窓口」や「保護者からの相談窓口」という役割を持つ支援教育コーディネーターは、実際に支援にあたる支援学級担任と通常の学級担任等との日常的な連携を図るとともに、具体的な支援についての会議を開催したり、外部の専門機関と連携するなど、学校えん全体をコーディネートする必要があります。 5学校えんとしての支援教育の方針の明確化 学校えんに在籍する障がいのある子どもを含むすべての子どもが、互いに理解し合い、仲間としてつながることを目標に、支援教育の方針を校えん内委員会などで定め、全学年、全学級で計画的に進めていくことが必要です。 (2) 校えん内における支援・相談体制の充実 1支援学級担任や通常の学級担任の支援体制の充実 支援教育コーディネーターが中心となって、通常の学級担任や支援学級担任が、それぞれの役割を果たし、日常的な連携の在り方を明確にし、組織的な対応をより一層進める必要があります。 2子どもの学習や活動を支える支援体制の充実 支援教育コーディネーターが中心となって、本人・保護者のニーズを把握し、子どもの支援体制を充実させることが重要です。 3保護者への支援・相談体制の充実 保護者からの相談に対しては、原則としてチームで対応することが大切です。学校えんが組織として子どもを支えていることを保護者に伝えることは、保護者の安心感につながります。保護者の相談内容によっては、すぐに関係機関との連携を必要とするものもありますが、学校えんが、まず、保護者の思いをしっかり受けとめ、適切に関係機関との連携を図っていくことが大切です。 ○校えん内連携体制のイメージ図 ○参考 しょうちゅう学校 学習指導要領 総則第5節の7 解説 高等学校 学習指導要領 第1章5款の5の8 解説より 「担任教師だけが指導に当たるのではなく,校内委員会を設置し,特別支援教育コーディネーターを指名するなど学校全体の支援体制を整備するとともに,特別支援学校等に対し助言又は援助を要請するなどして,計画的,組織的に取り組むことが重要である。」 ○支援教育コーディネーターの役割 ・学校内外の適切な人材や保護者、関係機関をつなぐキーパーソンとなる。 ・チームの編成やその活動状況を把握し、連絡・調整を行う。 ・実態把握や課題分析のための情報を収集・整理する。 ・研修企画や校内委員会の運営を中心に担う。 16ページ 【校内支援体制モデル例】 1 校内委員会 子どもの様子や保護者からの相談等で、子どもの抱える困難に気づいたとき、校内で情報共有し、適切な支援内容を検討します。支援教育や人権教育、生徒指導等、既存の組織や学校の取組みを活用し、校内組織と年間計画に位置づけることが大切です。 ○子ども・保護者、校内委員会と地域で安心して暮らせる体制づくりの連携図 子ども・保護者 ・本人、保護者の思い ・生育歴、教育相談歴 ・家庭での子どもの様子 ・医療、療育機関の指示  校内委員会 役割 ・学習面、行動面、生活面からの正確な実態把握 ・具体的な支援内容の検討 ・校内での適切な理解と支援 ・実態に応じた研修計画 ・教職員、保護者などへの情報提供及び理解啓発 構成例 校長、教頭、首席、教務、 支援教育コーディネーター、 こども支援コーディネーター、 進路指導、生徒指導、養護教諭、人権教育担当、支援学級担任、学年主任、担任等 地域で安心して暮らせる体制づくり <支援学校、福祉施設、医療機関> ・センターてき機能の充実 ・医療面での留意点、ケアの内容、方法 <労働機関> ・ハローワークなどとの就労等に関しての連携、協力及び協議 ○校内で支援チームを構成し、役割分担のもと保護者との情報交換、関係・専門機関との連絡調整、校内委員会の開催の調整を行うことが大切です。 17ページ (3) 支援学校との連携 〜支援学校のセンターてき機能の活用〜 地域において支援教育を推進していくため、支援学校は、その専門性を生かしながら地域の学校園を積極的に支援していく、センターてき役割を担っています。 支援教育地域支援整備事業について 大阪府教育委員会では、支援教育の一層の促進を図るためしょうちゅう学校等や府立支援学校における校内体制はもとより、教職員や保護者からの多様なニーズに即応できる地域支援体制の整備を図っています。 府立支援学校に地域支援リーディングスタッフを配置し、学校園の支援を行うとともに、府内に7つの地域ブロックと広域支援校を設定し、府立支援学校及び市町村教育委員会が連携して、地域支援リーディングスタッフを活用しながら、各ブロック内の地域支援体制の充実を図っています。 ○ブロック内学校園の連携のイメージ図 支援学校〈リーディングスタッフ〉 ・教育相談  ・校内支援体制構築支援 ・個別の教育支援計画等の作成活用支援 ・教員研修(幼しょうちゅう高)支援 等 市町村〈リーディングチーム〉 ・校内支援教育コーディネーター ・通級指導教室担当者 ・しょうちゅう学校の支援学級担任等 市町村教育委員会 ・専門家 ・支援教育担当指導主事等 1教職員の専門性の向上 障がいのある子どもの障がいの状況は、重度・重複化、多様化しており、指導にあたる教職員の専門性の向上と指導体制の整備、効果的な指導の充実が求められています。 そのため、支援教育に関する専門的知識・経験を有する支援学校の教職員や医療・福祉関係の専門家が、教職員の相談を受けたり、支援をおこなったりしています。 2相談・支援体制 学校えんにおいて、障がいのある子どもに関わる相談や支援の必要が生じた場合、各教育委員会に依頼します。依頼を受けた教育委員会は、各地域(府内7ブロック及び広域支援校)の府立支援学校等と連携し、相談依頼のあった学校えんに支援学校の地域支援リーディングスタッフ等を派遣します。 18ページ 【支援内容例】 ・教育相談 拡大・代替コミュニケーション(AAC)に関すること、障害特性に関すること 動作面に関すること、しょ検査、指導プログラム、発達相談、言語面に関することなど ・「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」等の作成・活用についての指導・助言 ・研修会の開催、研修会における講師派遣 ・総合的な学習の時間などにおける聞き取り学習のための講師派遣等 ・学校の施設設備等の提供(行動観察しつ、聴力測定しつ等) ・学校の教材・教具等の貸し出し 【相談形態】 〔来校相談〕相談者が、支援学校を訪問し相談する形態 〔巡回相談〕相談員が、実際に学校えんを訪問し、障がいのある子どもを実際に観察してから 具体的な支援方法を助言する形態 〔電話相談〕電話等により相談する形態 2.研修・理解啓発について (1)障害のある子どもへの理解を深めるための研修 「ともに学び、ともに育つ」学校えんづくりを進めていくためには、すべての教職員が障害理解教育に対する共通認識を持ち実践を深めていくことが不可欠です。 子どもへの適切な配慮がないことから、学校えんに対しての信頼を損なうケースが見られます。そのため、学校えんとして、次の点に留意し、研修を行う必要があります。 ・全教職員が、障害に対しての正しい知識と理解を深め、学校えん全体で取り組むこと。 ・子どもや学校えんの状況に応じた年間計画やカリキュラムに沿った研修を行うこと。 ・障がいの原因や特性、指導方法、補助する機器等についてだけではなく、保護者の願いや周りの子どもの思いに関することも含めた研修内容であること。 ・その際、障害に対して表面だけの理解に終わらず、一人ひとりの状況や障害に関する背景も含めた理解に努めて、研修を実施すること。(例えば、中途難聴者の場合は、手話を習得していない人もおり、講演会等においては、手話通訳者とともに要約筆記者なども準備する必要があります。) 19ページ 事例 【エイ中学校での研修の事例】 1 エイ中学校の研修のポイント 障がいのある子どもに対する理解を深め、すべての子どもたちが互いに理解し、認め合える集団づくりを進めていけるよう、支援教育コーディネーターが中心となって、校内委員会が研修を企画する。その際、次の点は特に大切にしている。 ・必ず全員が参加すること ・支援学級の参観や、実際に指導方法を体験するために支援学級でティームティーチングを行うなど、具体的な子どもの様子を理解したうえで、具体的な例を分析的に学び合うこと ・支援教育の観点から通常の学級でも応用できるような内容も入れること ・基本的な事項を研修する場合には、一斉講義型の研修を行うが、しょう集団による参加体験型、課題解決型のワークショップ形式の研修を取り入れること A Bさんの事例を通して、具体的に課題追求した研修事例 授業中の不適応行動やうまくいかなかった場面を取り上げて、「なぜそうなったのか」「だからどうしたらいいのか」と具体的にみんなで分析しあいながら、解決策やよりよい対応を考えるように研修を進めた。 ・Bさんは、突然先生の髪の毛を引っ張るという場面が一日に何度もある ・Bさんの行動について、一日の行動観察をおこなった ○表 ケース1 その直前の状況は エイ先生が、ものを片づけるように言葉のみで指示。 何をしたか?     先生の髪を引っ張る。 周囲の人の反応は? 「離して」とやさしく言う。 その結果どうなった?  しばらく離さなかったが、5分程度で離す。 ケース2 その直前の状況は    A先生が、もう一人の子どもに教えていた。 何をしたか?      先生の髪を引っ張る。 周囲の人の反応は?   「やめなさい」ときつくしかる。 その結果どうなった? さらに先生を何度かたたく。 このような問題となる行動を1日の行動観察記録にしてみると、同じ「先生の髪を引っ張る」という行動でも、色々原因が違うことが分かるようになった。 ・ケース1の場合は、自分のいやな事を先生に言われたので、それから「逃避するための行動」と考えられる。 ・ケース2の場合は、先生の注意を引くための「注意を要求する行動」と考えられる。この場合は、これに応じると本人はうれしくてどんどんエスカレートして、この行動を繰り返してしまう。その場は応じず、後でいけない行動であることを丁寧に教え、先生の注意を引くための別の行動を教えることも大切である。 ・同じ行動でもそれぞれに原因が違うので、対処法も変えなければならない。 ・このように、子どもの行動を具体的に捉え、分析する事によって、少しずつ子どもの行動を理解して対応することができ、子どもに望ましい行動を伝えることができる。 ・子どもの行動を理解した教員の関わりが、他の子どもへのよいモデルとなり、子どもどうしのよいつながりを育むことにつながる。 20ページ (2)教職員の指導力の向上 障害のある子どもの指導にあたっては、障がいの特性を十分に理解することが重要です。また、教職員が子どもの困り感をうまく引き出すコミュニケーションりょくや冷静に対応するアンガーマネージメントを身に付けるなど、指導力のより一層の向上に努めることが大切です。 ○参考 「この痛み一生忘れない【体罰防止マニュアル】改訂版」(平成19年11月)より抜粋 体罰はすべての子どもの心に深い傷を負わせるものである。とりわけ障がいのある子どもは、状況によっては周囲の人たちから理解されにくく、人権侵害を受けやすい危険性がある。そのような状況にあっては、先頭に立って子どもの人権を守るべき立場にある教職員が体罰を行うことは極めて許しがたい。 しかしながら、教職員が体罰に至った状況を鑑みると、障がいのある子どもの指導方法等に対する理解が十分で  なかったり、校内の指導体制そのものの工夫がさらに必要な状況が推察され、校長のリーダーシップのもとに教職員全体で取り組んでいかなければならない課題であると考えている。 (3) 保護者・地域に対する理解啓発 障がいのある子どもが、本人の選択に基づき地域社会で自立した生活を送ることができるようになるためには、学校えんや家庭だけで取り組むのではなく、地域社会を含めた取組みが不可欠です。 そのため、学校えんは、保護者の了解を得たうえで、授業参観や体育大会などの学校行事や学校だより、PTA活動などを通じて、保護者や地域に啓発するとともに、障害について、広く、正しい理解と認識を深める必要があります。 事例 【入学式や学校だより・学級だよりによる啓発の事例】 障害のある子どもが入学する際に、保護者の意向を十分に聞いたうえで、入学式が終わった後に、他の子どもや保護者に対して、わかってほしいことや気を付けてほしいことなどの説明を行い、その内容を学校だよりなどにも掲載し、正しい理解を求めている。 また、教材として配布した障外理解教育に関する読み物に関して、それぞれの家庭で保護者と子どもとで話し合っていただくように依頼し、話し合った様子や子どもの感想などを学校だよりに掲載し、広く保護者に啓発している。 【授業参観日での啓発の事例】 国語科の学習において、授業参観で、班で朗読を発表することになった。ふだんは支援学級で学んでいる子どもであるが、自分が担当する箇所を支援学級で練習し、地域の方も含めた授業参観の場で通常の学級の子どもとともに、活躍する姿を発表した。 また、授業参観の折に、すべての学級で障害理解教育を実施し、保護者にも参加していただき、「障がいのあるなしにかかわらず、すべての人がともに生きる」ということについて、子どもとともに認識を深めた。 21ページ 【保護者が取り組んだ事例】 エイ小学校で、支援学級に在籍する子どもたちの保護者が、障害児に対する理解のための紙芝居を作って、全校の子どもたちに自分の子どもの障害について語りかけた。 このメンバーには、障がいのない子どもの保護者の方も加わり、一緒に障害理解のための活動に取り組んでいる。まだ10人に満たないが、放課後や土日に集まって紙芝居を作った。 子どもたちに紙芝居を見せたとき、最後にBさんの保護者が、「今まで本当にありがとう。みなさんが優しく接してくれたおかげでBは本当に幸せでした。人は誰にでも弱い部分があるのだから、これからもみんなが理解しあって仲良くしてください。」と優しく語りかけた。 Bさんの保護者は、最近やっと、クラスの他の保護者のかたに「困った時は助けて下さいね。」と言えるようになったそうである。 3. 評価及び通知票について 障害のある子どもについては、一人ひとりの障がいの状況等を十分把握したうえで、指導の目標を達成するために、指導内容・方法の工夫を進めることが必要です。 そのうえで、子どもが持てる力を発揮して学習活動に取り組む状況などをきめ細かく把握して評価し、指導に活かすとともに、通知票の記載内容が本人や保護者に十分理解されるよう努めることが大切です。 これまでも、各学校えんでは、記録写真集やポートフォリオ等を活用し、子どもの成長や学習の成果を本人や保護者に具体的に伝えるような工夫をしてきました。 支援学級に在籍する子どもが通常の学級において学習した教科の評価についても、学習のねらいに即した評価を行うことが必要です。適切に記載せず、通知票の評価欄に斜線を引いたり、空白のままで本人や保護者に渡すことは、本人はもとより保護者にも、学校教育への大きな失望と不信感を抱かせるばかりではなく、本人やその保護者との、それまで築いてきた信頼関係を損なうこととなります。 参考 児童生徒の学習評価の在り方について(報告) 平成22年3月24日 中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 7.障害のある児童生徒に係る学習評価の在り方について (2) 障害のある児童生徒の学習評価に係る基本的な考え方 ○障害のある児童生徒の学習評価に当たっては,児童生徒の障害の状態等を十分理解しつつ,行動の観察やノート等の提出物の確認など様々な方法を活用して,一人一人の学習状況を一層丁寧に把握する工夫が必要である。 ○ただし,その評価の考え方については,学習指導要領に定める目標に準拠して評価を行うことや個人内評価を重視すること,学習指導と学習評価とを一体的に進めること,指導目標や指導内容,評価規準の設定においては一定の妥当性が求められることなど,障害のない児童生徒に対する評価の考え方と基本的に変わりがない。したがって,障害の状態等に即した適切な指導や評価上の工夫は必要であるが,一方で,評価そのものへの信頼性にも引き続き十分配慮することが求められる。