表紙 ともに学びともに育つ 支援教育のさらなる充実のために 平成25年3月大阪府教育委員会 は じ め に 大阪府における障害のある子どもの教育は「ともに学び、ともに育つ」を基本として進めてきました。 平成19年に改正学校教育法が施行され、発達障害を含む障害のあるすべての子ども一人ひとりの教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行う特別支援教育が法的に位置づけられてから5年が経過しました。 また、平成18年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」や、平成23年に改正された障害者基本法などを背景に、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築の必要性が提言されています。 大阪府においては、平成24年度末に策定の「大阪府教育振興基本計画」において、「すべての子どもの学びの支援」を教育振興の目標の1つに、さらに、「障害のある子ども一人ひとりの自立の支援」を基本方針の1つに掲げ、「ともに学び、ともに育つ」教育のさらなる推進のために取り組もうとしています。 これまで、各学校えんが、障害のある子どもを中心にし、すべての子どもが、互いを尊重し、ともに高め合える集団を育てる教育を進め、「ともに学び、ともに育つ」学校づくり・集団づくりを行うため、めざす教育の方向や考え方を整理し、実践の指針を示してきましたが、このような社会情勢の変化を受け、これまでのとりくみをさらに充実させ、深化させるために、平成18年に作成した本冊子を改訂することにしました。 今回の改訂では、一人ひとりの子どもの多様なニーズへの支援などについての指導事例、実践に向けてのポイントや、また、障害のある子どもを含むすべての子どもへの支援などをさらに詳しく記載しました。 また、障害のある子どもに対するいじめや人権侵害事象の根絶をめざし、集団づくりや未然防止の観点などについても加筆しています。 本冊子が各学校えんにおいて、研修等で活用され、障害のある子どもを含めたすべての子どもを大切にした教育がなされることにより、「ともに学び、ともに育つ」学校えんづくりがさらに推進されますことを期待しております。 大阪府教育委員会 しょうちゅう学校課・高等学校課・支援教育課・人権教育企画課 2ページ 目次 第1章 「ともに学び、ともに育つ」教育  1.「ともに学び、ともに育つ」大阪の教育 2.これからの大阪府としてのとりくみに向けて 第2章 よい出会いのために 1.障害のある子ども、保護者との出会いを築く (1)入学までの過程   6ページ (2)保護者とのよい出会いを築くために  7ページ (3)体験入学・入園のすすめ 9ページ 2.関係機関や学校えんとの連携 (1)関係機関との連携  9ページ (2)学校えんかんの連携 10ページ 3.環境整備について (1)配慮すべきこと 12ページ (2)環境整備の具体例 12ページ (3)教科用図書等の準備 13ページ 第3章 「ともに学び、ともに育つ」学校えんづくり 1.学校えん全体で取り組む総合的な体制づくりに (1)教職員の共通認識を図る5つのポイント 14ページ (2)支援・相談体制の充実 15ページ (3)支援学校との連携〜支援学校のセンターてき機能の活用〜 17ページ 2.研修・理解啓発について (1)障害のある子どもへの理解を深めるための研修 18ページ (2)教職員の指導力の向上 20ページ (3)保護者・地域に対する理解啓発 20ページ 3.評価及び通知票について 21ページ 第4章「ともに学び、ともに育つ」教育の充実のために 1.障害のある子どもへの支援について (1)「個別の教育支援計画」・「個別の指導計画」について  22ページ (2)「個別の教育支援計画」・「個別の指導計画」の作成・活用にあたって 22ページ (3)「個別の教育支援計画」の作成 23ページ (4)「個別の教育支援計画」の活用事例 24ページ (5)個人情報の保護 25ページ (6)支援学級の在り方  25ページ (7)通級指導教室(通常の学級に在籍する子どもへの支援) 26ページ (8)入院して治療を受ける子どもたちの支援について  28ページ (9)医療的ケアを必要とする子どもたちの教育 29ページ 3ページ 2.「ともに学び、ともに育つ」授業づくり・集団づくりについて 30ページ (1)ユニバーサルデザインの観点を取り入れた授業づくり 31ページ (2)なかまづくり 33ページ (3)交流及び共同学習について 37ページ (4)居住地校交流(支援学校でのとりくみ)  40ページ 3.障害理解教育の充実 (1)障害に対する正しい理解と学びの在り方 41ページ (2)カリキュラムの作成 41ページ (3)学習活動例 43ページ 1幼稚園の事例 2小学校(高学年)の事例 3中学校の事例 4高等学校の事例 4.いじめの根絶のために (1)いじめ問題解消に向けた基本的な考え方 47ページ (2)障害のある児童生徒に対するいじめ事象の最近の特徴 48ページ (3)いじめ事象の解決に向けた取組み 49ページ (4)いじめ事象の解決に取り組んだ事例に学ぶ 51ページ 第5章 進学や就労について 1.進学について (1)高等学校について 55ページ (2)自立支援推進校・共生推進校について 59ページ (3)視覚支援学校・聴覚支援学校・支援学校について 61ページ (4)大学・専門学校等について 61ページ 2.ちゅう・高等学校等からの就労について (1)就職、就労支援施設 62ページ (2)障害福祉サービス 62ページ 3.福祉・医療・労働等の関係機関との連携について  62ページ 4ページ 第1章「ともに学び、ともに育つ」教育 1.「ともに学び、ともに育つ」大阪の教育 ○大阪府には、障害のある子どもをはじめ、外国にルーツのある子どもや、様々な立場にある子どもたちが暮らしています。すべての子どもたちの自尊感情や自己有用感を育み、未来への展望を持って生きていくためには、互いのちがいを認め合い、地域社会の中で関わりながらともに生きていく態度を育むことが大切です。これまで大阪では、このような「多様性」と「地域性」を大切にした教育を進めてきました。 ○障害のある子どもの教育においても、生活を通して仲間とつながり、支え合い、高め合うことをめざす「ともに学び、ともに育つ」教育を基本とし、将来、自らの選択に基づき地域社会と関わりながら、ともに自立した生活を送ることができるよう、子どもたちの可能性を最大限に伸ばすことを大切に進めてきました。そして現在、ほとんどのしょう中学校に支援学級が設置され、障がいのある子どもがともに学んでおり、高等学校においても障がいのある生徒がともに学んでいます。 ○このように、大阪がこれまでに大切に培ってきた「ともに学び、ともに育つ」教育は、障がいのある子どもと周りの子どもたちが、集団の中で一人ひとりを尊重し、ちがいを認め合いながら、自尊感情を高め、互いを大切にする態度を育むとりくみであるとともに、地域社会の一員として人や社会とつながり、支え合いながら、生き生きと活躍できる共生社会の実現をめざすものであり、その形成の基礎となるものです。 2.これからの大阪府としてのとりくみに向けて ○大阪が全国に先駆けて取り組んできた「ともに学び、ともに育つ」教育を一層発展させていくためには、支援教育をめぐる国の動きに注視するとともに、すべての子どもの学びと育ちを支える「授業づくり」や「集団づくり」が必要です。 ○特に、喫緊の課題である発達障街のある子どもたちへの対応については、早期からの適切な支援が必要です。そのため、表面に表れやすい問題となる行動だけに注目するのではなく、ICF(※P5参照)の考え方を通して、さまざまな環境要因や問題となる行動の背景等を理解し、子どものつまずきに沿って対応することが求められます。 ○そのことが、周りの子どもの理解につながり、学び合い、支え合う集団が育まれます。一人ひとりの子ども理解をふまえた個別支援と集団指導をバランスよく行っていくことが大切です。 ○また、障害のある子どもたちにとって必要な支援は、すべての子どもたちにとっても効果的な支援となることから、ユニバーサルデザインの観点を取り入れた「授業づくり」や自尊感情や自己有用感を高める「集団づくり」を進め、「ともに学び、ともに育つ」教育の意義をしっかりと共通理解し、一層充実させることが必要です。 ○ライフステージに応じた切れ目のない総合的な支援を行うために、乳幼児期・学齢期・成人期までの一貫した支援体制の構築に向け、支援をつなぐ「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を作成し、それらを効果的に活用し、支援を充実させていくために、保護者、学校かん、福祉、医療機関等と連携を図る必要があります。 ○あわせて、子どもたちや保護者の思いを受けとめ、就労や自立、社会参加を意識したキャリア教育を、早期から計画的、組織的に行うなど、引き続き、すべての学校えんが「ともに学び、ともに育つ」教育を継承し、一人ひとりの子どもの自立と社会参加に向けたとりくみを一層発展させていくことが大切です。 5ページ 参考 ○支援教育をめぐる国の動きについて ・国連において、平成18年に採択された「障害者の権利に関する条約」で、「インクルーシブ教育制度(inclusive education system)の確保」が示されました。その中で、<人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的のもと、障害のある者が教育制度一般から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理てき配慮」が提供される等が必要>としています。 ・国においては、本条約の批准に向け、国内法整備の一つとして「障害者基本法」を一部改正(平成23年8月5日施行)し、障害者の定義にICF(国際生活機能分類International Classification of Functioning Disability and Health)の考え方を取り入れました。ICFは、「障害」を生活上支障となる固定的なものと捉えることなく、健康状態や環境因子との相互作用の中で起こる状態と捉えるものです。 ※ ICFの構成要素間の相互作用の図 ・教育に関しては、本条約をふまえたインクルーシブ教育システムの構築に向けた議論がなされています。平成22年7月、文部科学しょうの中央教育審議会初等中等教育分科会に設置された「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」の議論を経て、国としては初めて「同じ場で共に学ぶ」ことが示されました。 平成24年7月23日には、『共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)』が出され、「本人、保護者の意見を最大限尊重した就学指導の在り方や就学さき決定の仕組み」について述べるとともに、「速やかに関係する法令改正等の体制を整備していくべきである」と述べています。 ・加えて、文部科学しょうでは、平成23年11月に「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」協力者会議を設置し、10年ぶりに調査を実施しました。本調査において、通常の学級に在籍する発達障害等のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合が6.5%であることが、翌年12月に公表され、今後の施策のあり方や教育のあり方を検討していくこととなっています。