義務教育活性化推進方策 平成15年3月 大阪府教育委員会   目次 はじめに 1 現状及び課題 〜変容を続ける子どもたち〜  1 依然として深刻な心と行動の状況   (1) いじめ・不登校、いわゆる「学級崩壊」   (2) 少年非行の変質と凶悪化の進行  2 子どもにかかわる新たな教育課題   (1) 学力をめぐる状況   (2) 健康・体力をめぐる状況  3 教育システムと子どもの実態の乖離  4 管理・運営面で生じた課題 2 府教育委員会と市町村教育委員会の役割分担と協力  1 府教育委員会の役割  2 新たな協働関係の構築のための府教育委員会の責務  3 市町村教育委員会の役割 3 義務教育活性化のための方向性  1 義務教育活性化の目指すもの  2 義務教育活性化のための基本的考え方   (1) 調和のとれた教育内容【総合的視点に立つ教育の推進】   (2) 幼児期から青年期までの一貫性ある教育【教育の連続性確保】   (3) 信頼に応える学校経営【課題に迅速に対応できる学校経営】   (4) 学校・家庭・地域の協働【連携の強化】  3 展開方策 〜総合的な施策展開〜 4 わがまちの誇れる学校づくりをめざして 【教育内容】 《学力向上プロジェクト》  1 確かな学力の定着   (1) 基礎的・基本的な内容の確実な定着と、自ら学び自ら考える力の育成   (2) 創意工夫を生かしたオンリーワン・スクールの取組み 《こころ元気プロジェクト》  2 豊かな心の育成   (1) 人と社会に優しい体験活動の推進     〜ボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動等の推進〜   (2) 他者への思いやりで心豊かな社会   (3) 心のケアの充実 〜不登校対策を中心としたカウンセリングの充実〜   (4) 少年非行への取組み 《子ども元気アッププロジェクト》  3 体力の向上   (1) 子どもの生活習慣改善   (2) 子ども体力アップ   (3) スポーツ振興 【教育の連続性】 《一貫教育プロジェクト》  4 小・中学校の一貫性ある教育の推進   (1) 教育課程編成の工夫   (2) 教員配置の工夫  5 中・高校の一貫性ある教育の推進〜目的を持って進路決定できる子どもの育成〜  6 障害のある子どもへの一貫性ある教育の推進   (1) 地域でともに学び、ともに育つ教育の充実   (2) 地域の小・中学校に対する専門的な教育支援の提供 【学校経営】 《学校いきいきプロジェクト》  7 開かれた学校運営   (1) 学校運営改善のための評価の充実   (2) 子どもを守るためのシステムの整備  8 教職員の力量向上   (1) 研修の充実   (2) 評価・育成システムの定着   (3) 効果的な養成・採用・配置・登用 【学校・家庭・地域の協働】 《学校・家庭・地域がっちりプロジェクト》  9 学校・家庭・地域の総合的教育力の活性化   (1) 教育コミュニティづくりの促進   (2) 家庭の教育力の活性化のための支援 【特色ある取組みに学ぶ】  10 情報発信 おわりに -------------------------------------------------------------------------------- はじめに ○府教育委員会は、平成11年4月に、「学校教育の再構築」と「学校・家庭・地域社会の連携による総合的な教育力の再構築」を柱とし、平成11年度から20年度までの10年間を計画期間とする教育改革プログラムを策定した。 ○教育改革プログラムにおいては、義務教育に関して、新学習指導要領(*1)の実施に伴う授業改善やきめ細かな指導、知の総合化(*2)に向けた「総合的な学習の時間」(*3)の有効な実施などとともに、学校支援人材バンク(*4)の充実と活用、学校教育自己診断(*5)の実施及び学校協議会(*6)の設置などの開かれた学校づくり、さらに、地域教育協議会の設置をはじめとする総合的な教育力の再構築等の方向性を示し、各市町村教育委員会との連携のもと、現在その取組みを着実に進めている。 ○しかしながら、本来安全であるべき学校を根底からゆるがす事件の発生や、平成14年度からの完全学校週5日制と新学習指導要領の実施に伴う、保護者や府民の間の学力低下への不安の高まりなど、新たな課題も生じている。また、依然として沈静化しない少年非行や増加傾向が続く不登校などについては、さらなる具体的対応が求められている。 ○一方、地方分権や規制緩和が進む中、地域の教育をめぐる諸課題に対応するためには、府と市町村の一層適切な役割分担と緊密な連携協力関係が必要である。教育改革の推進にあたって、市町村教育委員会においては、これまでから、それぞれの地域の実情を踏まえ、特色ある取組みを展開してきた。今後とも、地域に根ざし、保護者や地域住民の信頼に応える教育を進めるためには、市町村教育委員会や各学校が、創意工夫を生かした主体的な取組みを一層推進するとともに、府教育委員会が広域的・専門的な観点から支援に努めることが重要である。 ○このような観点から、今般、府教育委員会として、教育改革プログラムのさらなる推進を図るため、義務教育段階における課題について、その対応や市町村が一層効果的な施策選択を行うための支援を整理し、おおむね、教育改革プログラムの計画期間である平成20年度までに取り組む具体的方策をとりまとめた。 *1 全国のどこで教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、各学校が教育課程を編成し実施するにあたって基準とするよう、文部科学省が定めたもの。小・中学校においては、改訂された新学習指導要領が平成14年度から実施されている。 *2 各教科等で身に付けた知識・技能を相互に関連付け、総合的に働くようにすること。(「教育課程審議会:教育課程の基準の改善に関する基本方向について」から) *3 自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることや、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにすることをねらいとして、地域や学校、児童・生徒の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や児童・生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行う。(学習指導要領から) *4 地域や社会の各界で活躍する優れた知識や技能を有する多様な人材を学校教育の指導者として広く活用し、児童・生徒に感動を与え、学習意欲や将来への夢をはぐくむことができるよう、学校等に対し対象となる人材情報を提供するシステム。 *5 学校教育活動が児童・生徒の実態や保護者・地域住民の学校教育に対するニーズと対応しているかどうかについて、教職員、児童・生徒、保護者らが記入する診断票に基づいて学校自らが学校教育計画の達成度を点検し、学校教育改善のための方策を明らかにするもの。 *6 保護者や地域住民の意向を把握し、学校運営に反映させることにより、学校改善を図るために協議する学校支援組織で、学校教育法施行規則に示す学校評議員と同趣旨のもの。 -------------------------------------------------------------------------------- 1 現状及び課題   〜変容を続ける子どもたち〜 1 依然として深刻な心と行動の状況  ○今日の子どもたちをみると、豊かな感性や自由な発想力、創造力など社会の流れに柔軟に対応できる力を備えているとともに、文化・スポーツ活動に自ら意欲的に取り組むなど、様々な積極面や長所が認められる子どもたちも決して少なくない。  ○しかし、豊かな人間性の基礎をはぐくむ時期である幼児期から義務教育期において、  ・様々な体験が不足する中、感動する心、他者への思いやり、共感する心、生命の尊さに対する感性などが希薄である  ・将来への夢や希望が明確でなく、自尊感情が持てない  ・社会のルールや生活のマナーを守るという規範意識、義務感・責任感、忍耐力や根気強さに欠けている といった状況が指摘されている。  (1) いじめ・不登校、いわゆる「学級崩壊」   ○府内の小・中学校における、いじめの発生件数(*1)は依然として多い。   ○不登校児童・生徒(*2)は増加傾向にあり、小学校から中学校に進学する段階の不登校が急激に増加している。   ○学級がうまく機能しない「学級崩壊」や小学校1年生における学級未形成の問題も見られる。  (2) 少年非行の変質と凶悪化の進行   ○少年非行は、戦後第4の波にあると言われるほど深刻な状況にあり、大阪府においては、刑法犯少年の検挙・補導人員(*3)が8年連続全国ワースト1(平成13年度)という厳しい状況が続いている。   ○校内での暴力行為(*4)については、小・中学校とも増加傾向にある。   ○犯罪を犯した少年について見ると、普段の学習や生活面では特段問題が見られないものや、いじめられたりした経験があるものも多い。   ○学校や家庭などで突然感情を抑制しきれなくなって暴力を振るう、いわゆる「キレる」要因として、過度の統制や過保護・過干渉といった家庭での養育態度や、家庭内での緊張状態が指摘されている。   ○携帯電話やインターネットの普及に伴い、「テレホンクラブ」や「出会い系サイ ト」等によって、子どもが被害者となる強制わいせつや児童買春・児童ポルノ事犯等の刑法犯認知件数(*5)も増加している。 *1 (府内公立小学校) (府内公立中学校) 平成9年度 323件 千人率0.6 414件 千人率1.6 平成11年度 286件 千人率0.6 577件 千人率2.4 平成13年度 293件 千人率0.6 620件 千人率2.7 *2 欠席日数30日以上の児童・生徒について集計。 (府内公立小学校) (府内公立中学校) 平成9年度 1,220人 千人率2.4 4,952人 千人率19.0 平成11年度 1,741人 千人率3.6 8,502人 千人率34.8 平成13年度 1,824人 千人率3.8 9,701人 千人率42.0 *3 刑法犯少年は、交通事故に係る業務上(重)過失致死傷を除いた「刑法」に規定する罪等を犯した20歳未満のもの。 平成9年 19,646人 平成11年 17,679人 平成13年 14,633人  (大阪府警察本部「大阪の少年非行」から) *4 (府内公立小学校) (府内公立中学校) 平成9年度 201件 1,717件 平成11年度 209件 2,264件 平成13年度 285件 2,817件 *5 認知件数とは、被害の届出若しくは告訴・告発を受理等した件数。 2 子どもにかかわる新たな教育課題  (1) 学力をめぐる状況  ○我が国の子どもの学力は、国際的に見て、知識・技能については上位に位置している(*1)が、他国と比べて学ぶ意欲が低く宿題や自分の勉強をする時間が少ない(*2)という状況が指摘されている。  ○一方、完全学校週5日制の実施に伴い、新学習指導要領において、学習内容の厳選や教科の授業時間数が削減されたことにより、子どもの学力が低下するのではないか、また、家庭の状況などにより、学力差が拡大するのではないかと危惧する声もある。  (2) 健康・体力をめぐる状況  ○子どもたちの健康・体力をめぐる状況は、社会環境や生活習慣の変化により大きく変わりつつある。身長や体重などは、親の世代に比べ顕著に向上しているものの、体力・運動能力については低下傾向(*3)にある。小学校低学年で、姿勢の悪さや、長時間立っていられないなど、筋力や持久力の低下が全国的に指摘されている。  ○また、朝食や睡眠を十分とらずに、学校において、全身倦怠感、頭痛、腹痛など体調不良を訴える子どもが増加している。  ○摂食障害や薬物乱用、性の逸脱行動、肥満や生活習慣病の兆候等の深刻化など、心の健康問題としての対応策が指摘されている。 *1 IEA(国際教育到達度評価学会)の国際数学・理科教育調査結果によると、我が国の生徒(中学校2年生)は、平成7年の数学の成績が39か国中3位、理科が41か国中3位であり、平成11年の数学の成績が38か国中5位、理科が38か国中4位である。PISA〔OECD(経済協力開発機構)生徒の学習到達度調査〕の2000年調査結果によると、我が国の生徒(高等学校1年生)は、数学的リテラシーが31か国中1位、科学的リテラシーが31か国中2位である。 *2 PISAの2000年調査結果によると、我が国の生徒(高等学校1年生)は、国語や数学、理科について「宿題や自分の勉強をする時間」が32か国中最低である。 *3 【体力・運動能力テスト調査の推移(走・跳・投)】    −文部科学省調査− 対象:11歳(小学校6年生)   ○50m走(秒) 〔男子〕 平成9年度 8.86 平成13年度 9.03 〔女子〕 平成9年度 9.13 平成13年度 9.26   ○走り幅跳び(cm) 〔男子〕 昭和46年度 329.5 平成9年度 309.71 〔女子〕 昭和46年度 302.0 平成9年度 275.58   ○ボール投げ(m) 〔男子〕 昭和46年度 35.4 平成13年度 29.95 〔女子〕 昭和46年度 21.5 平成13年度 17.26 3 教育システムと子どもの実態の乖離  ○近年、子どもの心身の成長が著しい一方、生活や意識の面では自立が遅れ、個人差も広がる傾向にあるなど、成長の過程に様々な変化が生じている。  ○小学校1年生から担任の指導が通らず、授業が成立しないなどの状態や、高学年を中心としたいわゆる「学級崩壊」の状況が見られ、これまでと同様の指導観や指導方法では対処しきれなくなっていると考えられており、学校運営体制のあり方についても工夫が求められるところである。  ○小学校入学時点での子どもの状況は、同じ地域に住みながら、公立・私立の幼稚園・保育所に通っている子どもがいる一方、そのいずれにも通っていない子どもがおり、また、それぞれの教育内容・保育内容も一様でないなど、多様化している。  ○小学校から中学校へ進学する段階で、学級担任制から教科担任制へと大きく変わること、生活指導面における対応も異なるなど、小・中学校間の段差が、一部の子どもにストレスを生んだり、学校生活の満足感や授業の理解度の低下、さらに、中学1年生になって不登校の増加を招く一因となっているという指摘がある。 4 管理・運営面で生じた課題  ○いじめ、学校の荒れ等とあいまって、学校からの情報提供が不足していることが、保護者の学校に対する不信をまねいており、情報の公開を進めるとともに外部の意見を効果的に反映する学校運営システムの確立が強く求められている。  ○また、本来ならば安全であるはずの学校において発生した児童殺傷事件によって、学校の安全管理のあり方がハード面、ソフト面から改めて問われており、具体的な対策を講じることが喫緊の課題となっている。 -------------------------------------------------------------------------------- 2 府教育委員会と市町村教育委員会の役割分担と協力 1 府教育委員会の役割  ○府全体の教育の振興を図るとともに、市町村教育委員会による円滑な教育行政の展開を支援する立場から、広域性・専門性を必要とする施策の実施や、総合的な調整を担う。  ○教育諸課題について、市町村教育委員会の考えを踏まえつつ、広く府民へメッセージを発信するとともに、市町村教育委員会と緊密な連携・協力のもと取組みを推進していく。 2 新たな協働関係の構築のための府教育委員会の責務  ○地方分権の流れの中で提起される新たな国の制度や事業等に関して、ガイドラインや実施要綱等のサンプルを提示するなど、府の基本的考え方を示す。  ○教育情報の収集、データベース化、発信など情報提供機能を充実する。  ○市町村教育委員会の判断を過度に制約しないこと、実証的研究の成果や情報の収集・提供など日常的な行政支援機能を重視すること、教育行政の執行や学校の管理運営が法令に違背する場合に是正することなどに留意して、日常的な指導・助言等を行う。  ○管理職研修やリーダー研修、市町村教育委員会の指導主事等に対する研修の充実や、指導力不足等教員対策など、教職員の資質向上を図る。  ○社会的要請に応えて、先行的な取組みや府内に普及すべき取組みを推進するための施策を実施する。 3 市町村教育委員会の役割  ○公立幼・小・中学校教育や地域の教育の振興については、第一義的には、直接その責任を持つ市町村教育委員会が主体的な役割を担う。  ○市町村教育委員会は、地域に根ざした教育を一層推進できるよう、具体的行動計画を立てて施策化するなど、所管する学校等に指導性を発揮することが重要である。 -------------------------------------------------------------------------------- 3 義務教育活性化のための方向性 1 義務教育活性化の目指すもの ○『地域に根ざした学校づくりを通して、日本社会の形成者としての子どもの確かな学力の定着、体力の向上、人間的成長』を目指し、義務教育の活性化を図る。 2 義務教育活性化のための基本的考え方 ○すべての子どもたちに対する高い期待をもって、基礎的・基本的な学習内容の確実な定着、自ら学び自ら考え主体的に判断し行動しよりよく問題を解決する能力、優しさや思いやり、規範意識、健康や体力などすべてにおいて、調和のとれた子どもの成長を図る。 ○そのため、教職員が、認識と目標を共有し、やりがいをもって意欲的に教育活動に取り組むとともに、子どもたちが自ら進んで諸活動に取り組む魅力ある学校づくりを推進する。 ○学校教育は、家庭・地域を基盤としているということを再認識し、家庭・地域との連携の強化を図り、学校・家庭・地域が協働して、子どもの教育や子育てにかかわる教育コミュニティづくりを促進する。 (1) 調和のとれた教育内容 【総合的視点に立つ教育の推進】 1) 学力について     〜「基礎的・基本的な内容の確実な定着」、「自ら学び自ら考える力の育成」〜 ○いつの時代にも求められる教育の方向性として、基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせるとともに、意欲を持って自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動する力などをはぐくむことが重要である。すなわち、知識・技能はもとより、併せて、学ぶ意欲や思考力・判断力・表現力、そして、これらを総合して、生活の中で役立て問題を解決することのできる力を学力ととらえ、こうした学力を身に付ける取組みを推進する。 a) 子どもの学力等実態の把握・分析 ○子どもの学力等実態を把握し、学力の確実な定着を図る取組みを積極的に進める。 b) 「分かる授業」の展開のための授業研究の推進 ○子どもに確かな学力を定着させるためには、日々の授業において「分かる授業」が展開され、そのことを通して、何より子ども自身が達成感を実感できる経験の積み重ねが重要であり、つまずきの発見やその克服のための指導方法の充実を図る。 c) 学習の構えや仕方を身に付けさせる取組みの推進 ○とりわけ小学校低・中学年期においては、学校のみならず家庭における学習をも視野に入れ、学習に対する構えや学習の仕方などを身に付けさせることが重要であることから、そのための取組みの充実を図る。 d) 自学自習する力の育成 ○家庭の状況によって、子どもの学力差が拡大するのではないかという懸念に対して、子どもの学ぶ意欲につながる自学自習を行える力を育成することを基本とした取組みを進める。 2) 豊かな心の育成について    〜豊かな人間性、規範意識、自尊感情の育成〜 ○今日の子どもを取り巻く状況を踏まえると、子どもに「生きる力」の礎ともいうべき、生命を尊重する心、他者への思いやりや社会性、倫理観や正義感、美しいものや自然に感動する心等の豊かな人間性をはぐくむことは極めて重要である。 ○とりわけ、社会の一員としての規範意識や、自分を見つめ自分を大切にする自尊感情をはぐくむことの必要性が指摘されており、子どもに生きる意欲を持たせるとともに、自分の意志で実践できる力を身に付けさせることに留意する。 ○また、自国の歴史や文化に誇りを持ち、自分らしさを大切にするとともに、異なる文化について理解を深め、互いに違いを認め合い共に生きていく力や自分の意思を表現できる力を身に付けさせる。 a) 体験学習の充実 ○子どもは、地域での様々な人との交流や体験を通して、豊かな人間性をはぐくむことができる。 ○しかし、都市化の進展による遊び場所の減少、遊び時間の減少、テレビゲーム等の孤立的・室内的な遊びの広がり等によって、子どもどうしの集団による外遊びや子どもと大人が交流する機会が減少している。一方、国際化の進展に伴い、異なる文化等に接する機会は増加している。 ○そのため、ボランティア活動など社会奉仕体験活動や自然体験活動、国際交流等、人・社会・自然とかかわる直接的な体験を通じて、相互に支え合う意識を共有したり、自然に対する愛情や異文化に対する理解を育てる取組みに努める。 b) 人権教育の推進 ○人権尊重の社会づくりのためには、多様な価値観を持つ人々が互いに相手の立場を理解して友好関係を保つことや、すべての人々が社会に主体的に参加できることが重要である。「大阪府同和教育基本方針」策定以来取り組んできたこれまでの同和教育の経験や成果を生かし、子ども・同和問題・男女平等・障害者・在日外国人等に係る人権問題をはじめ、様々な人権問題の解決に向けて人権教育を推進する。 ○人権教育推進にあたっては、課題別担当者の明確化を図るなど、校内推進体制を確立するとともに、人権尊重の理念を学校運営に反映するよう努める。 ○障害のある子どもについての正しい理解と認識を深めるための適切な教育や啓発を進める。また、管理職はじめ全教職員がその意義を正しく理解し、自らも豊かな心を醸成しながら、教育活動全体の中で「ともに学び、ともに育つ教育」に取り組むための全校的な支援体制の構築を図る。 c) 道徳教育の推進 ○道徳教育は、子どもたち一人ひとりが自分自身や未来をしっかりと見つめ、人間としてよりよく生きていくために必要な道徳性を主体的に身に付けていく教育活動であり、各学校においては、学校の特色を生かした児童・生徒の心に響く道徳教育を一層推進する。 ○道徳教育を計画的・発展的に推進するため、学校全体として道徳教育の方向性を明らかにするとともに、保護者や地域の人々の積極的な参加や協力を得るなど相互の連携を図る取組みを推進する。 ○道徳の時間においては、各教科等との関連や児童・生徒の日常生活を考慮した重点的な指導を実施するとともに、道徳的な価値の自覚が一層図られるよう体験活動等を生かした多様な取組みの工夫や魅力的な教材の開発や活用を行う取組みを促進する。 d) カウンセリングの充実 ○カウンセリング体制の充実を図ることによって、子どもの心の悩みや不安を解消し、子どもがいきいきと学校生活を送ることができるような取組みを推進する。 e) 問題行動、無気力・あそび・非行型不登校への対応 ○依然として沈静化しない問題行動や、増加傾向にある無気力型、あそび・非行型の不登校(*1)への取組みを推進するため、学校の指導体制と地域からの支援体制の充実を図る。 3) 健康・体力について   〜健康を維持管理できる資質・能力の育成〜 ○子どもの生活習慣の乱れや摂食障害、薬物乱用、性の逸脱行動などの新たな健康課題に対して、子どもが生命や健康の大切さを理解し、生涯を通じて自らの健康を適切に管理し改善していくことのできる資質や能力の基礎を培い、判断力や実践力を育成する。 ○心と体の調和のとれた発育・発達を目指すため、体力の向上やスポーツに親しむ態度の育成とあわせて、健康の保持増進に関する保健教育、安全な生活を送るために必要な資質や能力の育成を図る安全教育、望ましい食習慣の育成を図る食に関する指導などを統合した概念としての健康教育をさらに推進するよう努める。 ○その際、学校の組織的・計画的な教育活動とあわせて、家庭や地域社会と連携し、日常生活により密着したものにするよう努める。 a) 健康教育の推進 ○食生活を取り巻く社会環境などの大きな変化に伴い、朝食の欠食、偏った栄養摂取や孤食、肥満傾向の増加や生活習慣病の増加及び若年化など、食に起因する健康課題が指摘されていることから、子どもたちに望ましい食習慣を身につけさせるための取組みを推進する。 ○早い時期から、自ら健康を考えコントロールできるヘルスプロモーションの考え方に基づいた健康教育を推進する。そのため、子どもが日常生活で遭遇する様々な問題に対して効果的に対処し、自己実現を可能にする能力をはぐくむライフスキル教育を積極的にとりいれた健康教育を推進する。 b) 体力向上のための取組みの推進 ○子どもの体力が低下傾向にあることから、子どもが意欲的に体力の向上を図ることができるよう、子どもが体を動かして遊ぶ取組みを推進する。 c) 運動部活動の活性化 ○少子化による部員不足や教員の高齢化による指導者の不足など運動部活動が低迷する中、その活性化を図るため、合同部活動(*2)や種目別拠点校方式(*3)を推進する。 d) 地域でのスポーツ環境整備 ○子どもが学校以外でスポーツを実施できる環境を整備できるよう、総合型地域スポーツクラブ(*4)の創設、育成などの支援を行う。 *1 欠席日数30日以上の児童・生徒について、不登校の状態を理由別に集計。 (府内公立中学校、〔 〕内は府内公立小学校) 平成9年度 平成13年度 あそび・非行型 709 〔31〕人 1,982 〔32〕人 無気力型 1,217〔240〕人 2,582〔395〕人 学校生活に起因する型 459 〔88〕人 716〔157〕人 不安などの情緒混乱の型 1,210〔409〕人 1,891〔493〕人 意図的な不登校の型 230 〔47〕人 462 〔52〕人 複合型 1,013〔351〕人 1,777〔544〕人 その他 114 〔54〕人 291〔151〕人 *2 部員数の減少により休部・廃部に直面したり、試合形式の練習等、実践的な練習が十分できなかったりする運動部のために、複数の学校が合同して部活動を行うこと。 *3 技術指導ができる専門的な顧問のいる学校を種目拠点校とする方式 *4 地域の誰もが年齢や技術レベルに合わせて、複数の種目をそれぞれのニーズに応じ、生涯にわたって楽しむことのできるスポーツクラブ。 (2) 幼児期から青年期までの一貫性ある教育 【教育の連続性確保】 1) 小学校入学前からの円滑な接続 a) 入学前の子ども・保護者への取組みの推進 ○幼児期の教育・保育の場は幼稚園・保育所があるが、どちらにも通わない幼児がいるなど育ちの場は多様である。また、小学校入学前の多くの子どもにとって、小学校生活は未知の世界である。そのため、子どもが、小学校生活にスムーズに馴染めるよう、入学前に、小学校で求められる生活規律や学習に対する構えを身に付けられる経験ができる機会を提供する。保護者に対しては、小学校で求められる生活規律や学習に対する構えについて、小学校からの情報提供、保護者どうしの交流の機会を提供する。 b) 小学校と幼稚園・保育所の相互交流 ○小学校と幼稚園・保育所との円滑な接続を図るため、幼保小の連携を促進するとともに、小学校と幼稚園の教員の相互派遣等を行えるよう検討を進める。 c) 小学校一年生での指導体制の工夫 ○学校における基本的な学習習慣や生活習慣を身に付けるため、少人数指導やティーム・ティーチング(*5)などの指導体制の工夫を推進する。 2) 小・中学校の一貫性ある教育 ○教育課程編成の工夫、小・中学校の教員配置の工夫、学校運営の改善等により、小・中学校の連携を図るとともに、9年間を見通し、指導の一貫性や系統性を図った教育を促進する。 ○小・中学校の校種間を超えた教員の連携強化や相互派遣により、個に応じたきめ細かい学習指導、生徒指導、進路指導の充実を図る。 3) 中・高校の一貫性ある教育 a) 生き方指導としてのガイダンス機能の充実 ○生徒の多様な価値観に基づく各々の進路希望を的確に把握し、それに基づき適切な支援・援助をするためにガイダンス機能の充実を図る。 ○さらに、生徒が働く意義や目的を探求し、一人ひとりが自分なりの職業観・勤労観を形成するとともに、自己理解を深め、主体的に進路選択する能力・態度を育てるため系統的取組みを進める。 b) 多様化する高等学校に対応する中・高連携の推進 ○生徒一人ひとりの多様なニーズに応えるため、府教育委員会では、従来の普通科高校や専門高校に加え、普通科総合選択制(*6)や総合学科(*7)、単位制高校(*8)等を設置するなど府立高等学校の特色づくりを進めている。このように、高等学校が多様化する中、生徒が「入りたい学校」を主体的に選択できるように進路情報を積極的に提供する。また、中高一貫教育については、平成16年度から実施されるその成果と課題を検証しつつ、取組み内容等についての調査研究を推進する。 ○高等学校への体験入学、学校行事や部活動等を通じた生徒相互の交流、中学校と高等学校の教員による相互の公開授業等、工夫を凝らした取組みを進めることを通して、生徒が目的意識を持って進学し学習できるよう、中高連携体制を強化する。 c) 府立高等学校の入学者選抜のあり方についての検討 ○生徒の多様な個性や能力・適性を一層多面的に評価するために、これまで総合学科、普通科総合選択制及び多部制単位制(クリエイティブスクール)(*9)において自己申告書に基づく面接を実施したり、全日制の課程単位制高校及び多部制単位制においては、過年度卒業者に、調査書の代わりに小論文による選抜を選択できるようにしたりする等、入学者選抜方法を改善している。今後も、平成14年度からの新学習指導要領の全面実施も受けて、入学者選抜の内容や方法について改善を進める。 4) 障害のある子どもへの一貫性ある教育 a) 地域でともに学び、ともに育つ教育の充実 ○各市町村において、障害のある子ども支援の地域ネットワークを再構築する中で、関係機関との連携を強化して、日常的な相談・支援体制の充実を図るとともに、幼児期から生涯にわたって支援していく体制が整備されるよう支援する。 ○通常の学校でともに学ぶことの意義を十分に認識し、通常学級・養護学級において個々の児童・生徒の状況に応じた教育内容の充実に努める。 b) 地域の小・中学校に対する専門的な教育支援の提供 ○盲・聾・養護学校は、教職員の専門性や教育資源を活用し、地域の小・中学校に対し、専門的な教育支援を行う。 *5 教員一人ひとりにも得意の分野や様々な特性があるので、それを生かしたり、学習形態によっては、教員が協力して指導したりすることにより、指導の効果を高めるための指導体制の一つ。 *6 普通科において、自分の興味・関心や進路希望等に応じた「エリア」(内容的に関連性のある教科・科目で構成される科目群)を選択し、系統的な学習を行う高等学校。生徒が自由に選択履修できる教科・科目を多く設定している。 *7 普通教育及び専門教育に関する多様な各教科・科目を生徒が主体的に選択履修できる学科。学年による教育課程の区分を設けない単位制で実施している。生徒が進路の方向性等に沿った科目選択ができるよう「系列」(体系性や専門性等において相互に関連する教科・科目で構成される科目群)を設けている。 *8 学年による教育課程の区分を設けず、生徒が、個性、能力に応じて自ら学習計画をたてることができるよう、弾力的な教育課程を編成している。 *9 単位制で、定時制の課程を活用し、1部(午前部)、2部(午後部)など異なる時間帯に教育課程を設けた高等学校。所属する部と他の部を履修することにより、3年で卒業することが可能。生徒が自らの進路や適性、興味・関心に基づいた系統的な選択ができるよう「ワールド」(内容的に相互に関連する科目群)を設ける。 (3) 信頼に応える学校経営 【課題に迅速に対応できる学校経営】 1) 学校の自主性・自律性の確立と開かれた学校づくりの推進 a) 保護者、地域住民の意向を反映した学校運営 ○学校が地域の信頼を得ることができるよう、互いに顔が見える双方向の関係をつくっていくため、積極的な取組みを進める。 ○学校教育活動が児童・生徒の実態や保護者・地域住民の学校教育に対するニーズに対応しているかどうかについて点検するため、学校教育自己診断を実施するとともに、その結果の分析を踏まえて出される改善計画について、学校協議会等で論議するなど、両者を一体のものとして、地域に支持される開かれた学校づくりを推進する。 b) 教育課題への組織的対応 ○新たに生じる様々な教育課題に対して、学校全体で、柔軟にかつ効率よく対応し、取組みの達成状況について検証できるような校内組織体制の構築を促進する。特に、家庭や地域社会と連携を深め協働して子どもをはぐくんでいくことができる校内組織体制の確立を図る。 ○各学校の実情と課題に応じて創意工夫を凝らした組織的・機動的な学校運営が行われるよう、学校事務を学校運営組織に適切に位置づけ、一層適正な学校運営が図られるよう努める。 c) 子どもの人権侵害を防止するシステムの整備 ○いじめ、体罰、セクシュアル・ハラスメント等の人権侵害から子どもを守るシステムの整備を図るとともに、深刻化する児童虐待について、学校と関係諸機関との緊密な連携を促進する。 d) 校長のリーダーシップの確立 ○各学校において、校長のリーダーシップのもと、自主的・自律的で地域に信頼される開かれた学校づくりを推進するため、校内組織体制の整備を進める。 2) 安心と安全の教育環境づくりのための危機管理体制の整備 ○各学校においては、保護者や地域の協力を得ながら、過去の事件・事故の教訓などを生かして子どもの安全確保に努めてきたが、さらに「大阪府安全なまちづくり条例」(*10)に基いて策定した「公立の学校における幼児・児童及び生徒の安全の確保に関する指針」(*11)を踏まえ、学校における安全管理体制の充実と危機管理システムの確立に一層努める。 3) 教職員の意識改革・資質向上 a) 教育に携わる公務員としての意識の向上 ○学校を取り巻く様々な教育課題に対して、学校が効果的に教育活動を展開するためには、教職員が組織の一員であるという認識を持ち、学校が組織体として有効に機能するよう努める。 ○完全学校週5日制の実施に伴って、特に長期休業期間中の教員の勤務実態に対して府民の信頼を損なうことのないように努める。 b) 教職員の人権意識の向上 ○子どもの人権意識をはぐくむためには、すべての学校教育活動が、子どもの人権を尊重する視点とそれにふさわしい環境で行われることが重要であり、その担い手である教職員が鋭敏な人権感覚・意識を持てるよう取組みを推進する。 c) 研修の充実 ○新学習指導要領の実施、「生きる力」の育成や基礎基本の確実な定着など、今日的教育課題に即応するため、教職員の意識改革を進め資質向上を図る研修を充実する。 ○管理職等のマネージメント能力の向上を図るため、学校経営や学校管理能力を高める実践的な演習をとりいれた研修についても充実させる。 ○より研修成果を高めるため、長期休業期間中も活用しながら、研修受講者の目標設定や個人内評価などを一部の研修で実施するとともに、研修内容・方法の見直しを図る。 ○市町村教育委員会との役割分担と連携協力関係を強化し、効率的な実施に努める。 d) 意欲・資質能力を向上するための評価・育成システムの構築 ○個々の教職員の意欲・資質能力に支えられた活動が、組織を活性化し、学校の教育活動を充実させる。また、そのような職場環境の中での日々の実践活動が、教職員の資質能力をさらに磨くとともに、取組みや成果に対する適正な評価が教職員の意欲を一層高める。 ○そのため、教職員が目標を設定し、意欲的に取り組み、業績や能力を評価す ることで教職員の意欲・資質能力の向上を図っていく評価制度を構築する。 e) 指導力不足等教員対策の具体化 ○学習指導・生徒指導・学級経営等において指導力が不足し子どもたちの教育への責任が果たせていない教員や、勤務態度・服務上の著しい問題のある教員の存在は、子どもに極めて悪い影響を与えるのみならず、保護者の学校に対する信頼を大きく損なうことから、これらの教員について厳正に対処する。 ○府教育委員会として、小・中学校の指導力不足等教員について、服務監督を行う市町村教育委員会において具体的な対応が進められるよう、対応マニュアルの送付、校外研修における代替措置や研修プログラムの提供などの支援措置を講じる。 4) 教職員の効果的な配置 ○教育水準の維持・向上を図り、これからの学校教育に求められている課題に対応するため、学級数に応じて措置される基本定数に加えて、指導方法の工夫改善等で別途措置されている教職員定数(*12)について、市町村教育委員会が責任をもって有効活用していく。 ○より効果的・効率的な組織体制を構築するため、非常勤(若年)特別嘱託員(*13)を積極的に有効活用する。 ○学校の活性化を図るために、管理職に多様な人材を登用する。 ○特色ある小・中学校一貫教育推進のため教員の兼務、校種間異動等を促進する。 5) 通学区域のあり方についての課題整理 ○これまで保護者から指定された通学区域外の学校に通学させたいという希望がある場合は、子どもの学習権を保障するという観点から、その理由を十分検討し、必要に応じて学校指定の変更を行うなど、弾力的な対応が行われてきた。 ○近年、規制緩和の流れの中、学校選択制を導入する自治体があらわれるなど、弾力化が一層進みつつある。 ○小・中学校における学校選択の自由化については、公開された各学校の教育情報をもとに、保護者が学校について研究し、学校に対する関心が高まることから、学校教育の活性化が期待されるなどのプラス面がある反面、義務教育としての教育の機会均等を損なうのではないかという懸念や、学校の序列化や学校間格差の発生、学校と地域社会の結びつきが弱まるなどの課題もある。 ○これらの状況を踏まえて、通学区域の在り方については、今後とも課題整理を進める。 6) 新しいタイプの公立学校(コミュニティ・スクール等)についての課題整理 ○地域独自のニーズに基づき、地域が運営に参画する新しいタイプの公立学校(コミュニティ・スクール(*14)等)の研究が進められており、大阪府の実情を踏まえた課題整理を進める。 *10 犯罪による被害を防止し、犯罪を発生させない環境づくりを行うことを基本に、安全なまちづくりに関する施策を総合的に推進するために平成14年4月1日から施行した条例。 *11 大阪府安全なまちづくり条例の規定に基づき、公立の学校における児童・生徒等の安全を確保するために行う必要な方策を定めたもの。平成14年10月1日から施行。 *12 「国の第七次公立義務教育諸学校の教職員定数改善計画(*1)」と同じ。 *13 退職した府費負担教職員を、これまで培ってきた能力や経験を生かすため引き続き再雇用し、府が経費を負担した上で市町村に派遣する非常勤職員。 *14 地域独自のニーズに基づき、地域が運営に参画する新しいタイプの公立学校。教育改革国民会議中間報告(平成12年9月22日)により、「市町村が設置することの可能性を検討する」とされた。 (4) 学校・家庭・地域の協働 【連携の強化】 1) 教育コミュニティづくりの促進 ○学校・家庭・地域ができることを持ち寄り、教育を縁に人々が豊かに交流しあい、「顔と名前が一致する人間関係」を構築する中で、子どもの健やかな成長発達をはぐくむ教育コミュニティづくりを促進する。 ○教育コミュニティづくりの推進組織となる「地域教育協議会(すこやかネット)」(*15)が全中学校区で立ち上がり、地域の実情に応じて工夫を凝らした取組みを展開していることから、今後、「すこやかネット」の取組みが充実し、継続した活動が展開されるよう、支援に努める。その際、先導的な取組みや各種助成制度等の情報提供を常時行ったり、地域における推進役となる人材の発掘・養成を行う。また、地域の人々が気軽に集い、情報が行き交う「すこやかネット」の活動拠点の整備を促進する。 2) 家庭の教育力を高めるための支援 ○子育てに悩む保護者や子育てに無関心な保護者が増えており、保護者が自ら学習することで解決が図れる家庭や、家庭内の努力のみでは解決が難しく、関係者による支援が必要な家庭の状況に応じた適切な支援を推進する。 ○そのため、保護者の学習機会の充実を図るため、家庭教育に関する学習プログラムを開発する。 ○また、保護者が、子育ての悩みや不安を共有し相談できる人間関係を身近なところに求めることができるよう、保護者どうしの交流の機会を拡充するとともに保護者のネットワークづくりを支援する。 ○学校教育と連携しながら、子育てが困難な状況にある保護者に対する支援方策を調査・研究する。 *15 学校・家庭・地域が一体となって総合的な教育力の再構築をめざし、地域の幅広い人々が地域の教育課題について話し合い、協働して、地域の実情に応じた活動を展開する教育コミュニティづくりの推進組織。学校・家庭・地域の連絡調整を行うとともに、地域教育活動の活性化並びに学校教育活動への支援・協力を実施する。中学校区単位に設置。 3 展開方策 〜総合的な施策展開〜 ○市町村教育委員会が、その目標や課題に対して、後述する「4 わがまちの誇れる学校づくりをめざして」に示した施策を、総合的・横断的に選択できるよう支援に努める。 -------------------------------------------------------------------------------- 4 わがまちの誇れる学校づくりをめざして 【教育内容】 《学力向上プロジェクト》 1 確かな学力の定着 (1) 基礎的・基本的な内容の確実な定着と、自ら学び自ら考える力の育成 1) つまずき克服と学力定着 ○すべての子どもに「確かな学力」と「学ぶ喜び」を身に付けさせる取組みを推進する。 ○国の第七次公立義務教育諸学校の教職員定数改善計画(*1)を活用し、学習の習熟度に応じた指導などの少人数指導を行い、学力の向上を図る。 ○府内全域に学力向上フロンティアスクール(*2)を指定し、各地域における学力向上の取組みの拠点として、研究報告や公開授業等により、その実践的研究の成果を普及する。 ○学識経験者、府教育委員会・市町村教育委員会、教員が構成する大阪府学力向上推進協議会(*3)において、各地区協議会と連携をしながら、学力向上のために有効な方策等を検討する。 ○国が実施した「教育課程実施状況調査」(*4)と併せて、大阪府の児童・生徒の学力や生活の実態を調査し、その結果をとりまとめ、保護者や府民に公開する。また、学力や生活の実態調査は、今後、継続的に実施し、教育課程の定着状況や施策の効果について検証する。 ○小・中・高等学校及び盲・聾・養護学校の児童・生徒ならびに保護者を対象として、平日の家庭での過ごし方や土曜日の過ごし方等について、実態調査を実施し、教育施策の改善に資する。 2) 学ぶ姿勢の定着 ○小学校入学時から学校生活や学習活動にスムーズに入っていくことができるよう、小学校前から小学校生活に慣れ親しむための体験入学や、幼稚園や保育所と小学校の交流を深める取組み等を積極的に支援する。保護者に対しては、小学校生活に対する不安を解消し入学準備のための協力が得られるよう、ガイダンス等を開催することを支援する。 ○小学校入学期当初から、基本的な生活習慣や学ぶ姿勢を確実に身に付けさせることができるよう、小学校低学年において非常勤特別嘱託員を活用するなど、きめ細かな指導体制を整える。 3) 自学自習する力の育成 ○授業や放課後等を活用して各学校が行うつまずきの克服、補充的・発展的な学習の取組みを支援するため、大学生サポーターによる学習や生活の支援を行う。 ○学習の習慣や自学自習する力を身に付けるため授業と家庭学習との関連を図った教材や家庭学習のてびきを作成し、各学校の取組みを支援する。 (2) 創意工夫を生かしたオンリーワン・スクールの取組み 1) 地域性を生かした「総合的な学習の時間」の展開、学校トータルのカリキュラムデザイン ○学校の特色は、単に新しいものに取り組むことによって創られるものではなく、子どもや地域の実態、課題に誠実に取り組む過程で様々な創意工夫が生まれ、その結果として自ずと形づくられるものである。そのため、各学校が、学校という時間・空間をいかなるものにしていくのか考えるとともに、特色ある教育を進めるためのカリキュラムデザインづくりを促進する。その際、国語力向上のための取組みや、英語に親しんだり、多文化共生の視点を踏まえた国際理解教育の充実、あるいは情報教育、環境教育、福祉教育の推進等、子どもにどのような力を育成するのかというトータルな視点に立って進める。 ○また、「総合的な学習の時間」は、地域や学校、児童・生徒の実態等に応じて、各学校が創意工夫を生かして行う教育活動であり、学校の個性が問われるものである。「総合的な学習の時間」の実施にあたっては、教科学習の成果に基づいた学習として取り組み、その学習の結果、再び、教科学習に立ち返っていくなど、「総合的な学習の時間」と教科学習の連携を図る。また、学習の過程で社会の現実に触れたり自分の生き方を見つめることにより「何のために学ぶのか」という学習の意義を考えたり、問題解決的な学習を展開したりすることにより自ら学び考える力を育成する。 ○各学校における取組みを支援するために、府として外部人材の活用の促進や教材・資料提供などを積極的に行う。 2) 「選択教科」の学習の充実 ○生徒の能力・適性、興味・関心等に応じ、一層多様な学習活動を展開するため、大学教官・高等学校教員・大学生ボランティア等の協力を得、専門性を生かす授業や中学校の教員とのティーム・ティーチングなど、指導方法の工夫改善を図る。 3) 読書大好き子どもの育成 ○読書の好きな子どもを育成するため、各学校において子どもの実態や発達段階に応じた計画的な読書指導を促進する。 ○また、全校一斉の「朝の読書活動」をはじめ優れた取組み・成果のある学校の事例を紹介するなど、学校図書館活動を含め学校の読書活動の活性化を進める。 4) 子ども科学博士の育成 ○子どもの科学に対する知的好奇心を喚起し、将来にわたって科学に興味・関心をもち続ける科学好きな子どもを育てるため、科学実験に堪能な学校外の人材を活用し、学校への出前実験授業を実施するなど、各学校の科学教育の推進を支援する。また、小学校理科教育についての市町村教育委員会主催の教員研修会に、府教育センターから講師を派遣する。 5) ITを活用した教育の一層の推進 ○ITを活用した教育をより一層推進するため、そのあり方と課題等について研究するIT活用教育推進組織等を設置し、わかる授業を展開するための教育用コンテンツの効率的な普及と開発や、ITによる教育支援についての知識・技能をもつ人材の確保などについて検討を進める。 *1 基礎学力の向上ときめ細かな指導を目指し、平成13〜17年度までの5年計画で実施するもの。(文部科学省要項から)    〔内容〕1.教科等に応じ、少人数授業を行うなど、きめ細かな指導を行う学校の具体の取組みに対する支援 2.円滑な学校運営のための教頭複数配置の拡充 3.養護教諭等、学校栄養職員、事務職員定数の改善 4.特殊教育諸学校における教職員定数の改善 5.長期社会体験研修に対応した研修等定数の改善 *2 理解や習熟の程度に応じた指導の実施や小学校における教員の得意分野を生かした教科担任制の導入など児童・生徒一人ひとりの実態に応じたきめ細かな指導の一層の充実を図るため、新しい学習指導要領のねらいとする「確かな学力」の向上に資するための実践研究を進めている研究校。(文部科学省要項から) *3 学力向上フロンティアスクールにおける実践的研究及び研究成果を管内の学校等に効果的に普及するため協議・検討する協議会。 *4 国全体としての児童・生徒の学習状況や教育課程の実施状況等の評価、学習指導要領の改訂の基礎資料を得ることを目的として実施されている。(文部科学省要項から) 《こころ元気プロジェクト》 2 豊かな心の育成 (1) 人と社会に優しい体験活動の推進    〜 ボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動等の推進 〜 ○現在、地域において福祉施設への訪問や清掃活動への参加などの活動を行ったり、地球規模での環境保護や世界の子どもたちのための国際協力などの活動に参加している子どもも少なくない。これらの様々な体験活動の取組みを支援する。 ○各学校の取組みに対して、府として外部人材の活用や教材・資料提供などを積極的に行うとともに、体験活動の在り方や指導方法などの研究を推進する。 (2) 他者への思いやりで心豊かな社会 1) 生き方を学ぶ教育の推進 ○みんなの力で人と社会に優しい大阪にするための子どもによるアピールを作成する。 ○さまざまな分野で活躍している経験豊かな先輩を学校に招き、その多様な生き方に触れる機会をつくることによって、よりよく生きるための思いや考えを深める「心の授業」の開催を促進する。 ○学校・家庭・地域社会が連携し心の教育を推進するため、地域人材の活用や多様な体験活動など、特色ある取組みや先駆的な取組みなどの実践交流を促進する。 ○優れた業績を残した大阪の先人達の生き方を学ぶための教材の活用を促進する。 2) 人権教育の推進 ○人権問題の本質を理解し、人権の尊重が日常生活において実践できるよう、「人権教育基本方針」及び「人権教育推進プラン」に基づき、子ども・同和問題・男女平等・障害者・在日外国人等にかかる様々な人権問題の解決に向けた教育を推進する。なお、部落差別が現存するかぎり、同和問題解決のための施策を推進する必要があり、一般施策の効果的な活用により早期解決に努める。各学校においては人権教育推進計画を作成し、これに基づき人権教育を推進する。また、改訂される人権教育副読本をはじめとする教材等を活用し、各学校において、子どもたちの心に響くよう児童・生徒の発達段階や実態に応じて、指導内容や指導方法を工夫改善する。 ○幼少期における人権教育については、生命の尊さや人の人たる道(人間として基本的に守らなければならないルール)に気づかせ、豊かな情操や思いやりをはぐくみ、お互いを大切にする態度と人格の育成をめざす人権基礎教育の充実を含め、指導内容の一層の充実を図る。 3) 道徳教育の推進 ○各学校が道徳教育学習教材「未来を切り拓く心を育てるために」(大阪府教育委員会作成)を積極的に活用することを推進する。 ○「心のノート」は、学習指導要領に示されている道徳の内容を分かりやすく表した補助教材であり、各学校が創意工夫を生かし補助的に活用することを推進する。 ○保護者や地域の人との共通理解を図るなどの多様な取組みを行い、学校・家庭・地域社会が情報を交換し連携することによって、道徳教育の一層の推進を図る。 (3) 心のケアの充実        〜 不登校対策を中心としたカウンセリングの充実 〜 ○国の計画を活用しながら、スクールカウンセラーの有効な配置と活用に取り組む。また、中学校に配置しているスクールカウンセラーを弾力的に運用することにより、小学校にも派遣できるよう努める。 ○府教育センターにおける電子メールによる教育相談など、いつでもどこからでも気軽に相談できる体制の充実を図る。 ○適応指導教室に入室する割合は、不登校児童・生徒の7%に過ぎないため、より一層きめ細やかな支援を行うことができるよう、不登校対策に関する中核的機能を担うスクーリング・サポート・センター(*1)を設置するなどスクーリング・サポート・ネットワーク(*2)の充実に努め、訪問指導や体験活動プログラムを核に据えた取組みを促進する。 ○子どもにとっての良き相談相手として、比較的年齢の近い大学生を家庭に派遣し、心の支えとなることを通じて、学校復帰・自立への支援を図る。また、不登校児童・生徒をもつ保護者どうしのネットワークを組織して、同じ悩みを語り合うことにより、保護者間での情報交換と精神的支えづくりができるよう努める。 (4) 少年非行への取組み 1) 学校生徒指導体制の充実 ○各学校においては、各担任が抱える課題を教職員全員で共有し、みんなで解決していく相互のサポート体制を確立するため、校内の生徒指導体制を整備し、組織的な対応を図ることが重要である。そのため、各学校において、外部の関係諸機関との連携も含めて組織体制の見直し・充実を図る。 ○中学校において、校内の教員の生徒指導・カウンセリング技能の向上、校内相談体制・生徒指導体制・学習指導の充実、さらに、家庭訪問や地域・関係諸機関との連携等が一層進められるよう支援する。 ○大阪府の少年非行の特徴として、中学生の割合が多いことが挙げられるが、その前兆は小学校において散見されるケースが多い。そこで、小学校における、子どもの身近な悩みや思いを聞く教育相談活動や不登校の子どもとその家庭に対する支援等のサポート体制を、地域人材も活用しながら充実を図る。 2) 少年を非行から守る地域の大人のスクラム ○緊急かつ重大な少年非行事案等に対して、府教育委員会が「地区対応チーム」(*3)を編成、地区対応チーム会議を開催して、当該事案についての全体把握、解決のための行動計画策定、解決のための関係機関との行動連携を行い、市町村教育委員会と協働して取り組む。さらに、少年非行等の問題事案の早期発見・早期解決を図るための効果的な学校への支援体制やその方策を検討し、市町村単位での子どもサポート体制の構築を促進する。 ○また、補導センター等の関係諸機関と学校との連携をよりスムーズにして、問題行動の初期段階での迅速な対応ができるよう努める。 *1 不登校児童・生徒の早期発見・早期対応、教員や適応指導教室指導員の研修、家庭への訪問など、適応指導教室を中心とした不登校対策に関する中核的機能を有する組織・機関。 *2 スクーリング・サポート・センターを中心に、単独の市町村又は複数の市町村からなる学校・家庭・関係機関が連携した不登校対策のための地域ぐるみのサポートネットワーク。 *3 大阪府教育委員会事務局教育事務所の子どもサポートグループが、市町村教育委員会等からの要請に基づいて、事案の早期解決のために市町村教育委員会と共同で編成するチーム。 《子ども元気アッププロジェクト》 3 体力の向上 (1) 子どもの生活習慣改善 ○栄養・運動及び休養を柱とする調和のとれた生活習慣を確立することは、心や体の健康を保持・増進し、体力の向上、学習や生活への意欲を向上させることにつながることから、子どもの生活習慣改善を図るための取組みを進める。 1) 食に関する指導の充実 ○朝食は1日のスタートを決める大切な食事である。そのため、子どもが自ら朝食について考え、朝食が健康に与える影響など朝食の大切さを理解するため、食に関する専門性を有する学校栄養職員と担任のティーム・ティーチングなどにより、学校教育活動全体を通した指導の充実を促進する。また、保護者に対しても食生活の啓発に努める。 ○文部科学省が平成14年度配付した「食生活学習教材」の活用や、「食に関する指導」についての具体的取組みを紹介するなどの研修会等を開催し、食に関する指導の一層の充実を図る。 2) 健康3原則(食事、休養・睡眠、運動)の徹底 ○朝食欠食や偏った食事、就寝時間の遅さ、運動不足など子どもの生活習慣の乱れが、子どもたちの心身の健康に悪影響を及ぼしていることから、「調和の取れた食事」「適切な運動」「十分な休養・睡眠」という健康三原則を徹底させ、子ども自身が自らの生活習慣を改善していける力をつけることが重要である。 ○そのため、子どもが生活習慣全体をふりかえり、保護者とともに考え学び、子ども自ら生活習慣を改善できるノートを作成する。学校において、このノートを活用しながら、教科学習や特別活動等で子どもたちの健康教育の一層の充実が図られるよう努める。 ○子どもの生活習慣と、子どもの自覚症状などを問う健康調査を実施し、学校・家庭・地域が一体となった健康づくりの取組みが推進できるよう努める。 ○生活習慣の乱れによって生じる心や体の健康問題について、養護教諭が行う健康相談活動の重要性が高まってきている。そこで、養護教諭等の資質向上を図るための研修会を開催するとともに、校内の相談体制の整備、校外の医療機関及び専門医師等との連携の在り方の研究を進め、各学校における健康相談活動がより一層充実するよう支援する。 (2) 子ども体力アップ ○子どもの体力向上のため、筋力・瞬発力、調整力、全身持久力等の向上を年次別強化重点課題と定め、各学校に、それに沿った種目の実施を奨励する。 ○ホームページに各学校の記録などを掲載するとともに、取組み成果の発表や研究協議の場を設けるなど、体力向上に関するプログラムの研究と取組みを推進する。 ○スポーツや健康に関する情報などを盛り込んだ、文部科学省作成予定の「スポーツ・健康手帳(仮称)」を活用することにより、子どもや保護者が子どもの体力についての認識を深め、体力向上のための取組みを実践する。 (3) スポーツ振興 1) 合同部活動と種目別拠点校の育成 ○合同部活動や種目別拠点校方式を推進するため、複数校で大会に参加できるようよう、参加条件の規制緩和等を関係団体に働きかけるとともに、合同部活動を実践する中学校への外部指導者派遣を促進する。 ○近隣の中学校と高等学校が連携し、複数の部活動を実施する中・高連携事業への取組みを進める。 2) 地域スポーツ振興 ○府の中核的施設に広域スポーツセンター機能を整備し、地域の子どもがスポーツ活動を行う場の整備や、地域の連帯意識の高揚と世代間交流等地域社会の活性化に寄与する「総合型地域スポーツクラブ」の創設、育成を支援する。 ○中学校区等の地域において、「総合型地域スポーツクラブ」を創設、運営するために必要な人材(クラブマネージャー)の育成を推進するための講習会の開催や情報提供等を行う。 【教育の連続性】 《一貫教育プロジェクト》 4 小・中学校の一貫性ある教育の推進 (1) 教育課程編成の工夫 ○小・中学校一貫教育研究協議会を設置し、隣接する小・中学校等を研究指定校として実践的研究を進める。 ○具体的には、教科学習や「総合的な学習の時間」についての連携カリキュラムの作成や、「小・中学校間いきいきスクール」(*1)を活用した中学校教員の兼務等による小学校の教科担任制を促進する。また、生徒指導や進路指導の連携を深めたり、クラブ活動の協働指導体制の整備、児童・生徒の交流授業等を進める。 (2) 教員配置の工夫 ○創意・工夫をこらしてより特色ある教育活動を展開するとともに、「学級崩壊」や不登校などの諸課題を解決していかなければならない。そのため、中学校区における小・中学校間の教員の協働関係を構築して、小・中学校間の指導の一貫性を図り、個に応じたきめ細かい学習指導、生徒指導、進路指導を一層推進する。 ○その推進に当たっては、個々の教職員の得意分野や専門性を積極的に生かせるよう、小・中学校間において多様な教育活動のために必要とされる人事異動や兼務を積極的に行う。また、市町村教育委員会が主体的に「小・中学校間いきいきスクール」を拡充できるように支援する。 *1 各学校の特色ある教育活動の展開や「学級崩壊」・不登校などの諸課題に対応するため、中学校区の小・中学校間の教員の協働の関係を構築し、個に応じたきめ細かい学習指導・生徒指導・進路指導を一層推進していくよう、小・中学校間における人事異動など教員の様々な連携が可能となるような措置を講じている。 5 中・高校の一貫性ある教育の推進    〜 目的を持って進路決定できる子どもの育成 〜 ○職業観・勤労観育成のための系統的取組みを推進するため、中学校における職場体験学習等、発達段階に応じたキャリア教育(*1)を推進するとともに、高等学校で実施するインターンシップ(*2)への円滑な接続を図る。 ○府立高等学校においては、学区や市町村単位で、中学校との連携を密にして、府立高等学校合同の説明会などを実施することで、中学生・保護者が複数の高等学校の説明を受けられるような体制づくりを進める。 ○府立高等学校において、自校の教育研究の成果を中学生にも発信する場を設けること等を通して、中学生の学習意欲の向上や発展的な学習の取組みを支援する。 *1 職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育。 *2 自己の職業適性や将来設計について考え、職業意識の向上を図るため、生徒が高等学校在学中に自らの学習内容や将来の進路等に関連した企業等で就業体験をすること。 6 障害のある子どもへの一貫性ある教育の推進 (1) 地域でともに学び、ともに育つ教育の充実 ○学校間はもとより保健・医療・福祉・労働等の関係機関と連携し、地域で学ぶ児童・生徒やその保護者に対する相談・支援体制を整備するため、情報提供や教育相談担当者の育成を図り市町村教育委員会を支援する。 ○各学校が、学校全体としての協力体制のもとに教育活動を推進するとともに、保護者等の意向も踏まえ、個別の指導計画を作成するなど、一人ひとりの障害の状況に応じた教育の充実を図るとともに、学年間や学校間の指導の継続性を確保し、将来の地域社会における自立をめざした力を育成することを促進する。 ○養護学級の充実に努めるとともに、通常の学級に在籍する学習障害(*1)等の特別な教育的ニーズのある児童・生徒に対する指導方法等教育のあり方について検討を進める。 ○障害のある生徒の高等学校への入学者選抜についての受検上の様々な工夫、施設・設備の整備を進めるとともに、府立高等学校に知的障害のある生徒を受け入れ、高等学校における教育方法、支援のあり方や制度等について調査研究を進め、知的障害のある生徒が高等学校でともに学ぶ教育の検討を進める。 (2) 地域の小・中学校に対する専門的な教育支援の提供 ○小・中学校と盲・聾・養護学校が、校種を超えた交流と連携を一層促進するとともに、地域で学ぶ障害のある児童・生徒に対する教育の専門性向上を図るため、小・中学校教員と盲・聾・養護学校教員の兼務発令を検討する。 *1 国が設置した調査研究協力者会議が「学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。」と定義づけている。(平成11年7月2日) 【学校経営】 《学校いきいきプロジェクト》 7 開かれた学校運営 (1) 学校運営改善のための評価の充実 1) 学校教育自己診断の分析 ○学校教育自己診断の結果を学校運営改善に生かすための方策について、調査研究を深め、先進事例を含めた情報提供を行う。また、各学校の実施結果を学識経験者の協力により分析し、学校の取組みに生かすなどの学校教育自己診断活用を支援する方策について研究を進める。 2) 学校協議会等の全校設置 ○学校協議会等、保護者や地域の意見を学校運営に反映する組織について、全校設置を進める。 3) 授業公開、授業評価等による授業改善の推進 ○各学校が、授業公開を推進するとともに、授業について、子ども、保護者が評価したり、教員が相互評価するなどして、授業改善を進めることを促進する。 (2) 子どもを守るためのシステムの整備 1) 地域に根ざした安全な学校づくり ○「大阪府安全なまちづくり条例」に基づき策定した「公立の学校における幼児、児童及び生徒の安全の確保に関する指針」を踏まえて各学校が実施した具体的方策の事例を収集し、「安全管理実践事例集」を作成・配付する。 ○近隣に危険な状況の発生に関する情報がある場合及び不審者が校地・校舎に侵入しようとし、又は侵入した場合に備えて、文部科学省作成の「学校への不審者侵入時の危機管理マニュアル」をもとに、本府の実情を踏まえたマニュアルを提示し、各学校における危機管理マニュアルの作成・再点検を促進する。 ○通学路等における安全確保についても、地域住民や警察等との連携に留意して進める。 2) 子どもの人権侵害への対応 ○子どもが身近に気軽に相談や話ができるようにするため、学校の相談機能の整備・充実を図る。また、子どもに対する人権侵害を早期に発見し早期に対応するため、子どもを見守りサポートできる教職員体制の構築を促進する。 ○既存のケアの体制等では支援が困難な個別の事案については、関係諸機関との連携のもとに問題解決が図られるよう促進する。また、再発を防止し予防するため、子どもが自分を取り巻く人間関係や自尊感情を自ら豊かに再構築していけるような教育環境及び社会環境の醸成を図る。 3) 校内組織体制の確立 ○地域連携、情報公開や個人情報保護等の情報管理、危機管理等の新たな課題に対応するための校内組織のあり方について検討を進める。 8 教職員の力量向上 (1) 研修の充実 ○個々の教諭の能力・適性に応じて、対象教員全員に対し10年目研修を実施する。 ○新しい分野の指導技術が求められる教育現場に対し、専門的な立場から教員研修を実施する。そのため、複数の大学と連携して、夏季休業期間中に講座を開いたり、学校側の希望に応じて校内研修への大学教員の派遣を行う。 ○教科等の指導において、高く評価された教員を府教育センターの研修講師として招聘するなどして、教員の教科指導力の向上を図る。 (2) 評価・育成システムの定着 ○教職員の意欲・資質能力の向上を、教育活動の充実、組織の活性化と一体的に捉え、学校の活性化につながる教職員の評価・育成システムを着実に定着させる。 ○システムの基本的枠組としては、教職員だけでなく、子どもや保護者等の意見も踏まえて校長が策定する学校教育目標の実現に向けた、教職員の活動のPDCAサイクルの活性化を図るものとする。 ・学校の目標達成に向けた教職員の主体的な目標設定〔Plan〕 ・目標達成に向けた教職員の意欲的な取組みと、管理職による支援〔Do〕 ・子どもや保護者等の意見を踏まえた「自己評価」と、教育活動の充実・改善、資質能力向上につながる管理職等による「評価」〔Check〕 ・一層の充実・改善に向けた取組み〔Action〕 ○システムの試行の実績を踏まえながら、処遇への反映も含め、評価結果の活用のあり方について検討を行い、教職員の意欲・資質能力の向上につながる実効ある制度となるよう努める。 (3) 効果的な養成・採用・配置・登用 1) 大学と連携した養成システムの構築 ○学校のニーズにこたえる教員を養成するためには、教員を希望する学生に早い段階から学校現場を体験させる機会を与えることが必要である。そのため、各大学が教員養成カリキュラムに基づき、大学1、2年次において観察的な実習などを実施する場合、教育委員会としても積極的に協力するとともに、学生がインターンシップやボランティア等の様々な形で学校教育に参加する機会を拡大する。 ○また、府教育委員会の指導主事らが大学と協力して、教員養成のためのカリキュラムづくりを行う。 2) 採用選考システムの構築 ○教育者として使命感にあふれ、豊かな人間性に裏打ちされた、やる気のある教員を確保するため、ポスターなどによるPRだけにとどまらず、インターネットの活用など志願者に直接働きかけるような工夫を行うことにより、これから取り組まれようとしている大阪の学校教育の魅力を発信する。 ○また、採用区分の見直しや受験日程の早期提示等の出願環境及び選考方法の改善に努めるなど、教員採用システムの改革に着手する。 3) 工夫を生かした配置 ○これからの学校の教育課題に適切に対応するため、市町村教育委員会が、様々な定数を重点的かつ機動的に配置し、先進的な取組みを行う学校に対する加配の配置や兼務を行うことができるようにする。さらに、今後は、市町村教育委員会が主体的に学校づくりの体制を整備することが必要であることから、市町村教育委員会が非常勤(若年)特別嘱託員も含めた定数等を有効活用できるようなあり方についても積極的に研究する。 ○「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正(平成13年4月1日)により、「都道府県委員会の権限に属する事務の一部を、条例に定めるところにより、市町村が処理することとすることができる。」となったことを受け、府教育委員会に属する人事に関する権限の一部を市町村教育委員会に委譲することについて検討する。 4) 管理職の多様な登用方策についての検討 ○校長及びこれを補佐する教頭については、教育に関する理念や識見を有し、地域や学校の状況・課題を的確に把握しながらリーダーシップを発揮するとともに、職員の意欲を引き出し、関係機関等との連携・折衝を適切に行い、組織的・機動的な学校運営を行うことができる資質を持つ優れた人材を確保することが重要である。このため、教育に関する職の経験や組織運営に関する経験・能力に着目して、地域や学校の実情に応じた人材を確保することができるよう、これまでの受験要件を見直すとともに、若手教員や女性教員の積極的登用をはじめ、行政職員、民間人など幅広い分野からの登用のあり方を検討する。 ○健康面等で自ら管理職としての重責を果たしえなくなったと考えるものや、教壇に立って直接児童・生徒を指導することを望むものに対し、希望降任制度を(大阪市を除く小・中学校で)平成15年度から導入する。 【学校・家庭・地域の協働】 《学校・家庭・地域がっちりプロジェクト》 9 学校・家庭・地域の総合的教育力の活性化 (1) 教育コミュニティづくりの促進 ○「すこやかネット」の活動状況や組織運営、活動プログラム等の総合的な情報の収集・発信を常時行うとともに、余裕教室等を活用し、保護者や地域の人々が気軽に立ち寄り、子どもに関する情報を交換したり、地域活動を企画したりするための活動・交流拠点(事務局)を各中学校区に設置する。 (2) 家庭の教育力の活性化のための支援 ○人間関係の基本となる子どもとのコミュニケーションの取り方から、親となる心構え、発達段階ごとの子どもの課題など、子育てに必要な知識や具体的なスキルを身に付けるための体系的実践的な学習プログラムを開発する。 ○就学時健診(*1)や小学校・中学校・幼稚園・保育所の行事等の機会を活用するなど、子育てに悩む親の地域活動への参画や父親の子育て参画を促進するための親どうしの交流の機会づくりを一層拡充する。 ○いじめ、不登校、非行等の困難な状況にある子どもを持つなど、子育てやしつけに悩みや不安を抱く家庭を総合的に支援する具体的方策を調査・研究するため、地域との連携のもとに学校の持つ教育機能を活用した家庭教育サポートチームの活動地域を拡充する。 *1 就学予定者の健康状況を把握して、保健上必要な助言を行うために市町村教育委員会が実施する健康診断。 【特色ある取組みに学ぶ】 10 情報発信 ○各市町村における義務教育活性化の具体的な取組みを支援するため、各市町村の進んだ取組みとして、各市町村教育委員会における重点的施策・具体的取組み、特色ある市町村立学校の取組み、研究学校の研究状況と成果の報告並びに研究発表会の案内等をホームページ上で紹介する。 -------------------------------------------------------------------------------- おわりに ○教育をめぐる課題が山積する中、改めて、子どもたちを社会全体ではぐくむという姿勢とともに、地域に根ざし信頼される学校教育の再構築、とりわけ基盤となる義務教育を活性化していくための具体的努力が強く求められている。 ○そのために、市町村のこれまでの取組みの蓄積を効果的・効率的に結集するとともに、施策の選択と集中のもと、地域の教育の再構築のための取組みを進めていけるような仕組みづくりが必要である。 ○このような観点から、府教育委員会として、市町村教育委員会とともに義務教育について力を注いでいくため、教育改革プログラムを前提としながら、本府における関連する各種計画との整合も図りつつ、本推進方策を策定したところである。 ○なお、「4 わがまちの誇れる学校づくりをめざして」は、当面、重点的に取り組む方策をとりまとめたものである。今後、具体的な成果を積み上げるとともに、新たなさらなる対応方策についても併せて検討を行うこととする。 ○また、本推進方策については適切な進行管理を行うとともに、それぞれの市町村の先進的な取組みの普及や広域的・総合的な立場からの調整・助言に努めるなど、府教育委員会として義務教育の活性化を一層推進していくものとする。