支援者のためのトラウマの理解とトラウマインフォームドケア 私たちが支援の現場で関わる人の中には、これまでの人生のどこかで過酷な体験をして いる人がたくさんいます。 過去の体験が現在の心身の不調やその他の問題に影響していることがあります。 支援の場面でどのように関わったらよいか悩むことが多いかもしれません。 まずは、トラウマとその影響について知ることから、始めませんか? トラウマとは トラウマは、ひとりでは対処できないような予測できない圧倒的な出来事を体験した ときに生じるこころの傷のことを言います。 同じ出来事でも、どのような体験として受け止めるかは人によって異なります。文化的 な背景や発達段階、社会的サポートの有無などにも影響を受けます。 トラウマは、こころやからだ、行動や人間関係などに大きな影響を及ぼします。その 影響は、短期間であることもあれば、長期間に及ぶこともあります。 トラウマになりうる出来事 狭い意味でのトラウマ体験は、実際に危うく死にそうになったり、重症を負ったり、 性的暴力を受けたりする出来事をさします。 災害、暴力被害、身体的・性的虐待を受けること、それらを直接目撃すること など 広い意味でのトラウマ体験は、身体的・感情的に有害で長期的な影響を与える体験を 含みます。 重い病気やけが、家族や友人の死、子どもの頃の両親の別居、家族の精神疾患、 家族の自殺、貧困、いじめ など トラウマによる反応 〇侵入症状 トラウマとなった出来事が急に頭に浮かぶ (フラッシュバック) 繰り返し悪夢を見る    など 〇回避症状 出来事について考えないようにする 出来事を思い出させるような人、場所、場面などを避ける など 〇気分・認知の変化 「自分はダメな人間だ」「誰も信用できない」といった思いを持つ 「ひどいめに遭ったのは自分のせいだ」などと考える 悲しい、楽しいなどの感情がわいてこない 孤立感、疎外感がわく   など 〇過覚醒症状 寝付けない   過度に警戒する、びくっとする 注意・集中できない、落ち着かない 怒りっぽくなる      など 狭い意味でのトラウマ体験により、これらの症状が1か月以上続くときに、 PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断されますが、広い意味でのトラウマ体験 でも同様の反応の一部が認められることがあります。 これらはトラウマに特有の反応ですが、一般的なストレス反応でみられるような こころやからだの反応を伴うこともあります。   トラウマケア トラウマケアは3段階で考えることができます。 トラウマに対応したケアとは、リスクを抱える人に対して、トラウマについて 評価し、トラウマ症状やリスクにあった対応をすることです。 トラウマに特化したケアは、PTSDの治療プログラムなど、PTSD症状に特化した 介入や支援です。トラウマ体験のあるすべての 人にトラウマに特化するケアが必要なわけではありません。   ケアを提供する人                対象 訓練を受けた臨床家 トラウマに特化するケア   トラウマの影響を受けている人 専門家       トラウマに対応するケア   リスクを抱える人 誰でも       トラウマインフォームドケア すべての人 トラウマインフォームドケア(TIC) トラウマインフォームドケア(Trauma Informed Care:TIC)は、ケア全体の基盤と なるもので、すべての人を対象としてトラウマの知識を踏まえた理解や対応を行う ものです。トラウマは外から見ただけではわかりません。 トラウマ体験があるとわかっている人に対してだけでなく、さまざまな場面で接する すべての人に、トラウマやトラウマによる影響があるかもしれないと考えて、 対応することが大切です。 トラウマインフォームドケアに必要なこと 〇知識を持つ Realize トラウマの広範な影響を知り回復の可能性を理解する 〇気づく Recognize トラウマ症状のサインに気づく 〇対応する Respond トラウマについての十分な知識を統合して対応する 〇再トラウマの予防 Re-Traumatization 再トラウマ化を防ぐ TICでは、過去にトラウマを体験しているかどうかを大雑把に把握しますが、 体験の詳細やその時の感情などを深く聞き取る必要はありません。 日常生活の中に、さまざまな人や場所、物、状況、感情、考えが、 トラウマ体験を想起させる引き金(リマインダー)として潜んでいます。 過去のトラウマ体験の影響によって、現在の症状や問題行動が出現している こと、生活の中で症状や問題行動を引き起こすリマインダーになっていることを、 支援者と支援される人の間で共有することが役に立ちます。 トラウマ体験 トラウマ反応 リマインダー  トラウマインフォームドケアで大切なこと 支援の場が安全であること、支援される人が敬意をもって受け入れられている ことが大切です。 目の前の困難や問題について、過酷な状況を生き延びるために編み出した本人 なりの対処法かもしれないという視点をもって接してみましょう。 支援される人と支援者との間で必要な情報が共有され、支援される人の選択が 尊重される体験を繰り返すことで、信頼が構築され自分の行動をコントロール できる感覚を取り戻していくことができます。 その人がもつ強みを信じることが回復への希望につながります。 支援者のセルフケア トラウマに関わる支援は、支援者にとってもストレスになります。休息を十分 とったり、信頼できる人と話をしたり、リラックス法を実践するなど、 セルフケアにも気を配りましょう。 参考 ・DSM5 精神障害の診断・統計マニュアル第5版 医学書院 ・SAMHSAのトラウマ概念とトラウマインフォームドアプローチのための手引き 大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター・兵庫県こころのケアセンター訳 2018.3(閲覧日 2022.11.14) http://nmsc.osaka-kyoiku.ac.jp/ http://www.j-hits.org/ ・実践トラウマインフォームドケア さまざまな領域での展開 日本評論社 ・トラウマインフォームドケアをもっと知るために-TICガイダンス- 2021.3.31 (閲覧日 2022.11.14) https://traumalens.jp/wp-content/uploads/2021/05/210331_tic_guidance.pdf ・トラウマインフォームドケア 問題行動を捉えなおす援助の視点 日本評論社 ・視点を変えよう!困った人は、困っている人 2020.1 (閲覧日 2022.11.14) https://www.jst.go.jp/ristex/pp/information/uploads/ooka_trauma.pdf 大阪府こころの健康総合センター  〒558-0056  大阪市住吉区万代東3-1-46  TEL 06-6691-2811(代) FAX 06-6691-2814  http://kokoro-osaka.jp/  2022年12月発行 大阪府こころの健康総合センター