経営革新事例

更新日:平成28年5月11日


ニッチ分野での独自商品開発による経営革新

  (新機能商品の開発で付加価値を追及する井前工業株式会社)

調査研究部 小野 顕弘
企業名井前工業株式会社
事業内容耐熱・断熱繊維製品、機能性ファインセラミック製品などの設計・開発・製造事業
資本金10百万円
従業者数60人
住所高槻市東天川5丁目15番7号
URL http://www.imae-kk.com/
  


1 はじめに

  新事業活動促進法における経営革新計画において、最も取組の多い類型は「新商品の開発又は生産」であり、近年も多くの企業がこの取組を進めています。しかし、「取組の多さ」=「実行の容易さ」ではないため、実際は技術開発に課題が発生したり、十分な取引先が開拓できなかったりなど、必ずしも計画どおりに成功を収めている企業が多い訳ではありません。  
 
  そこで今回は、機能面に特徴を持つ新たな製品の開発・製造を継続的に実施し、着実に実績を向上させている企業事例を紹介し、その取組における成功のポイントを分析してみようと思います。    


 2 企業概要

  今回の事例企業である井前工業株式会社(以下I社)は、耐熱・断熱繊維製品などの製造事業者で、フェノール系断熱繊維の製造事業で創業し、以後製品・技術分野を耐熱・断熱関連に特化し、継続して新たな製品開発に取り組むことにより、鉄鋼業界をはじめ、家電や電子・半導体、自動車など幅広い業界企業と取引を拡大しています。その結果、現在では約1500種類の製品を取り扱っており、その中には製造工程のフィルム搬送ローラーなどに使用されるCFRP(カーボン・ファイバー・ラインフォース・プラスチック)といった特許(取引先との共同特許)出願中の製品も含まれているなど、技術開発型の企業として、積極的に事業を展開されています。
 
  そのようなI社の強みは、耐熱・断熱分野における素材・製品について、国内だけでなく世界規模で幅広い知識ノウハウを有している他、原反となる繊維生地の紡績から、裁断や成形、縫製などの二次加工まで社内で一貫実施しているため、その製造技術に関しても幅広いノウハウを保有していることであり、現在も本社工場と滋賀工場において多くの熟練技能者がI社の製品開発や製造事業を支えています。     


3 経営革新への取組

  I社では、創業時から耐熱・断熱分野に特化して、多様な製品開発に取り組んでいますが、その中で、高い機能を有する素材を活用した2つの新製品開発への目処が立ったことから、さらにその取組を進めるための補助金や低利融資などの支援策の活用を目的として、経営革新計画の申請を行い、承認を取得しています。当時、経営革新計画については、社団法人大阪府工業協会のセミナーなどで情報を得ていたため、既に内容を知っていたのですが、その頃ISO9001取得に向けて指導を受けていたコンサルタントからの勧めもあり、申請を決意したとのことです。  

  新製品としては、一つは高機能の真空断熱材であり、ジャーポットや炊飯器などの家電製品用部材としてメーカーからの開発依頼に対応して、開発を進めていたものでした。具体的には、ナノレベルの粒子サイズのシリカパウダーを芯材として3層構造のフィルムでパッケージした、内部を高度な真空状態に保つ断熱材であり、メーカーの要望する断熱性能を実現しながら、既存製品よりも薄く、曲げ加工が容易という機能性にも優れた製品です。  

  またもう一つの製品は、鋼管を出荷時に結束するために使用するスペーサーリングについて、現状と同等品質でより安価な製品の開発を高炉鋼管メーカーから依頼されたことをきっかけに開発を進めたもので、汎用ポリエチレンと架橋ポリエチレンを混合押出成形することで、表面に滑り止め効果のあるエンボスを形成することにより、従来のエンボス加工を不用にし、コストメリットを実現したものです。    


4 経営革新への課題と対応

  計画への取組は、スペーサーリングについては、架橋ポリエチレンメーカーの支援を得られたことや、金融機関からの資金調達の実現により設備投資も計画どおりに実施できたことから、無事製品開発に成功しています。また、受注面でも当初計画値を実現し、今後更に受注増加の見込みも立っているなど、順調に推移しています。

  さらに、既存事業においても、取引業界の景況が好調で、特に半導体・電子部品業界の受注が増加していることもあり、計画2年目実績で、売上高、利益、付加価値など着実に目標値をクリアしています。

  しかし一方で、真空断熱材については、当初の取引メーカーの要求品質を実現する製品開発には成功したものの、競合メーカーが更に高機能の製品を開発したことから、そちらが先行して採用されてしまいました。そのため、この製品の事業化を図るためには、競合メーカーと同等以上の品質の製品とすることが必要で、それには更なる技術開発が求められ、高額な設備が必要となることから、現在は市場性や採算面の再検討のため、開発を中断しています。  

  ただし、一方で取引先の家電メーカーより、高機能のパソコンの放熱板の開発依頼を受け、開発を進める中で、特殊素材と加工技術を組み合わせた新技術(現在、特許出願中)により、高熱伝導性と軽量安価という特徴を併せ持つ新たな製品開発の見通しが立ったことから、その開発計画を当初の経営革新計画に追加する形で計画を変更し、一層の事業拡大に取り組んでいます。   


 5 経営革新活動のポイント

  I社の強みは、断熱・耐熱分野における技術開発力であり、新事業への取組もその強みを活かして、新たな高機能製品の開発を行うことにより、付加価値を確保することを志向しています。

  ただし、研究開発は不確実なリスクの高い取組となりますので、I社ではまずテーマ選定について、取引先の具体的な要望に対応した製品の開発を進めることとし、特に、その中でも製品や素材の保有する特徴や機能性を活かしたものを選別するなどの工夫を行っています。

  また、開発の実行段階においても、計画管理を着実に実施しながら、同時に複数の開発テーマへの取組を進めることにより、市場環境の変化や自社の技術開発状況を定期的に確認し、より可能性の高い新たな製品開発へ重点を移行しながら取組を進めています。

  さらに、これらの取組を可能としているのが、これまでの技術ノウハウの蓄積であり、そのために従来から、素材から製品までの一貫生産と多くの取扱製品種類の維持にこだわり、限られた市場向けの製品であっても継続して社内製造を行うことなどにより、取引先からの信頼性向上という効果も実現しています。このような自社の強みの活用と計画管理というツールを組み合わせて活用することにより、独自の有効な事業推進方法を確立し、安定的な業績向上を実現されていることは、評価に値するものと思われます。 


6 おわりに

  今回の事例作成に当たっては、受注が好調で、かつ新事業にも取り組まれているため、大変お忙しい中ではありますが、井前社長には長時間のヒアリングに丁寧に対応いただきました。この場を借りてお礼申し上げたいと思います。また、I社の今後のますますの発展をお祈りしております。  


                             「エネガード」

エネガードの画像



「エネガード」は、井前工業株式会社で製造している配管用脱着式保温材です。
ワンタッチで着脱でき、施行時間が大幅に短縮できます。繰り返し使用できるので、ごみも減り経済的です。
断熱効果に優れているため、やけど防止や室温上昇を抑えるなど作業環境の改善ができます。

このページの作成所属
商工労働部 商工労働総務課 企画グループ

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